第6.7号合併号 NEWSLETTER 大阪地域医療ケア研究会 2004年5月25日発行
医療提供の立場から
中嶋 啓子 氏(医療法人啓友会理事長)
2015年は団塊の世代が高齢期を迎える
自己決定、自己選択と言っても自分自身がどのように生きて行きたいかという課題ではないでしょうか。戦後生まれの団塊の世代は、生まれてから死ぬまで競争なのです。老いて病院で死にたいと思っても死ねない時代が来るのですが、しかし2015年は団塊の世代が65歳以上になります。生き死にに関わる自己決定、自己選択が進み自立度が高まるでしょう。
介護保険施行後の現状として、在宅の脆弱化が挙げられます。在宅が不可能であるということではなく、何らかの障害・疾病を持った場合、家族の経済性・介護負担の問題から病院や施設へ行く方が介護報酬上、施設優位に流れています。
もうひとつ、かかりつけ医にとって重要なことは、痴呆性高齢者の新ケア時代ということです。痴呆で問題が起これば精神科の専門医と言いますが、果たして専門医はあるのでしょうか。痴呆性高齢者が地域で尊厳をもって生きていくという実現の中に、専門性というものが作られていくのではないかと思っております。
尊厳とは
世界人権宣言の中にも基本的に、「人は自由でありながら尊厳と権利について平等である」と謳っており、差別をされない第2条と第3条の生命・自由・身体の安全、第25条で衣食住・医療の保障を受ける権利と定義されています。
そこで私が考えた尊厳というのは、右図の通りです。その中で一番大切なことは『自尊心を保つことが出来る』ということです。痴呆性高齢者が、一人ひとり生きて来られた中でのプライド、その方が持っている自尊心を、医療・ケアを提供する者はしっかりみていくことだと思います。
次に大切なことは『必要な医療が受けられること』ですが、専門医と基本的な総合判断ができるかかりつけ医が"病診連携"で医療を提供することです。かかりつけ医はそのチームのコーディネートです。
尊厳を尊重した医療ケアとは、一人ひとりのあるがままの生き方を支えることであり、"チーム&ネットワークで関わること"だと思います。そして、今求められていることは、住み慣れた地域や在宅で、その人らしく(QOL)寿命を全うするまで(ターミナルまで)、生命を大切に生活することです。それには、24時間365日介護の中身がキーだと思います。そして、精神の老化、崩壊を食い止め、心身の健康維持(痴呆予防、痴呆介護の強化)が必要ではないでしょうか。
住宅地の在宅医療
在宅を理想のように語る人は多いが、実際は理想と現実の違いを思い知らされ、同居は破綻し、施設に送られるケースも多いです(介護地獄からバーンアウト)。都市住宅地で、私たちが関わってきたケースには、医療と福祉の狭間、家庭内姥捨て現象、家庭内別居などの現状があります。 在宅医療を人権という立場からみると、果たして在宅が本当に尊厳のある生活の場なのかと言わざるを得ません。確かに家というのは、自己決定ができます。家に入らせて頂くには、相手の承諾なしに出来ないわけですから、尊厳の高い場所であるということは考えられます。しかし、病院に比べ治療が手薄ではないか、衣食住においても節約のため満足な食事や冷暖房の無い家もあるのが現状です。医療と福祉の狭間まで充分なケアの手が届くということが必要です。
在宅医療の様変わり
神経筋難病等重介護の患者は、福祉ヘルパーとのネットワークなくして在宅医療は成り立たないのが現状です。
交通事故外傷による頚椎損傷のため、呼吸器をつけた23才の方、ご家族全員が働いている核家族です。その中で痰の吸引をヘルパーさんが行い、図の網掛け部分に診療所が関わり、その他は家族が関わっていました。生命と生活の両方の支援にヘルパーさんが関わっています。現状では、呼吸器をつけての在宅はヘルパーさんの介護ぬきには生活ができないという状況です。 人工呼吸器をつけたALSの患者さんの場合は、パソコンを使ったコミュニケートで、自分の意志を伝えることが出来ます。尊厳を守るためにもコミュニケートが取れる環境作りは第一の課題です。
24時間365日介護の保障こそ在宅シフトの介護保険
24時間365日、これをケアプランの中で実現していくためには、夜間介護の保障、重度重症命の保障、家族以外の介護の保障です。私の意見は、家族をケアプランの一員として組み入れ家族介護を保障することだと思います。そして、大事なことはかかりつけ医の存在といつでも入院できる病院があるということです。
そこで、今こそかかりつけ医の活性化と能力アップが必要ではないでしょうか。かかりつけ医は患者(利用者)の一番近くにいて、患者や家族の苦悩困難を同じ目線でみ共に苦悩することができます。かかりつけ医を皆さんが育てていただくことが必要だと思います。そうすれば24時間365日、ケア提供者の一員として開業医も生かされるのではないかと思います。
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