国民の生命と健康を支える医療制度は、世界最高の平均寿命と高度な保健医療水準を実現してきました。しかし、急速に進行する少子高齢化や急激な社会経済環境の変化、医療技術の進歩、国民の意識の変化など、医療を取り巻く環境は大きく変化し、個としての人間の尊厳を尊ぶ21世紀にふさわしい医療システムの構築が求められています。
急激な社会経済環境の変化は、社会不安やストレス、ひきこもりや虐待などの社会問題を増大させ、リストラによる失業、倒産、多重債務など、新たな貧困を生み出しています。また、急速な高齢化の進行は地域で孤立するひとり暮らし高齢者や障害を有する高齢者を大量に生み出し、健康と介護という深刻な老後不安を生み出しました。
こうした状況の進行は「高度に発達した社会保障と医療制度」の中にあって、必要な医療とケアを受けることができない人々の増大という新たな「医療の不在」を引き起こしていく可能性が危惧されます。
また、高水準な長寿社会の達成は、同時にがん、心臓病、脳卒中、糖尿病、歯周病などの生活習慣病の増加と、これに伴う医療や介護を必要とする人々の増加をもたらしました。こうした中で、生活習慣病の予防をはじめとした生涯を通じた健康づくりの推進が重要な課題になってきました。
今、求められているのは「誰もが、いつでも、どこでも、必要な医療とケアが受けられる」医療とケアのシステムの構築です。それは「全ての住民の健康で文化的な生活が保障され、地域社会で孤立することなく、家族や友人などに囲まれ、人と人との豊かな関係の中で生活し、全てのライフステージにおいて、自分らしく、誇りと生きがいをもった生活を送り、自己の可能性の発展と夢を実現させていく機会が保障された社会の実現」であり、全ての住民の暮らしを地域で支える医療とケアが連携した総合的な生活支援システムです。
私たちの仲間には、同和地区における医療活動を展開してきた診療所があります。かつて、同和地区には厳しい差別と貧困の中で深刻な健康問題が存在していました。「身近なところで安心して受診できる診療所の設置を」を合言葉に多くの同和地区診療所が開設され、同和地区における医療活動が展開されてきました。その結果、かつての深刻な健康問題はほぼ一掃されました。こうした活動を推進してきた「大阪府同和地区医療施設連絡協議会」も一定の役割を終えたことから、同和地区における医療活動の成果をさらに発展させていくためにも、2002年3月末をもって活動を終結し、「同和地区から地域への飛躍を」を合言葉に新たな活動を模索していくことになりました。
一方、私たちの仲間には、在宅医療と在宅ケアのネットワークを目指し、地域で暮らしを支えることを目標に地域医療を精力的に推進してきた先進的な病院や診療所も数多く存在しています。
こうした医療機関が中心となって、ここに大阪地域医療ケア研究会を設立し、「生涯を通じた健康づくりと全ての住民の暮らしを地域で支える医療とケアのネットワーク」に挑戦していくことになりました。そして、研究会活動の成果を広く情報発信していこうと考えています。
私たちが目指す「生涯を通じた健康づくりと全ての住民の暮らしを地域で支える医療とケアのネットワーク」は医療機関や医師をはじめとした医療や看護等の専門職だけで達成されるとは考えていません。病診連携や医療と福祉との連携はもとより、地域住民と共に考え、共に歩むことが何よりも大切であると考えています。
趣旨に賛同する診療所をはじめとする医療機関、団体、市民の参加を呼びかけるものです。
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