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第6.7号合併号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2004年5月25日発行


 

 ● シンポジウム ●
  2015年の高齢者介護
〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜

シンポジスト
 厚生労働省老健局振興課長          香取 照幸 氏
 医療法人啓友会理事長             中嶋 啓子 氏
 社会福祉法人るうてるホーム総合施設長   坪山 孝 氏
コーディネーター
 大阪府福祉人権推進センター次長       東野 正尚 氏
 
 介護保険制度がスタートして3年が経ち、さまざまな問題が見えてきた中「高齢者介護研究会」(厚生労働省老健局長の私的研究会)は、高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けたビジョンを6月に発表しました。その報告書を受けて私たちは、大阪の地で暮らしを支える医療と介護の現場から、高齢者ケアを検証し、地域で高齢者を支える仕組みづくりを考えるために今回のシンポジウムを企画しました。


2015年の高齢者介護
〜高齢者介護研究会報告より〜
香取 照幸 氏(厚生労働省老健局振興課長)

介護保険導入の経緯・意義
 
まず介護保険制度を導入した基本的な意義、考え方ですが、介護の問題を介護者本人と、その家族だけの問題ということでなく、本格的な高齢社会を迎えた社会全体の問題として考え、社会的なシステムによって対応する『介護の社会化』ということです。お互いの連帯のための制度ということになります。
 いくつか理念が掲げられています。(1)高齢者の自立を社会的に支援する『自立支援』。(2)利用者が権利としてサービスを選択・利用する『利用者主権』。(3)様々な医療や福祉サービスを一体的・継続的に提供する。そのために専門職のケアマネジャーという資格をつくり、ケアマネジメント、アセスメントという制度を導入した『全人的支援』。(4)制度の運営あるいは決定について、基礎自治体を単位に運営する『地方分権・市民参加』。これらが介護保険を導入した大きな意義となります。
 介護保険制度も施行して3年が経過し、2003年4月に第2期の事業計画に基づく保険料の改訂を各市町村でしていただいて、介護報酬の改定も終えました。法律上、制度施行5年で全体的な見直しをするということで、現在5年後の制度見直しに向けての作業をしています。
 高齢者介護研究会の報告書*1)というのは、5年後の制度見直し、さらにその先の2015年という団塊の世代の本格的な高齢期を迎える時までに、どういう課題を解決していかなければならないかを整理したものです。制度の基本設計、運営にはいくつか問題はありますが、概ね初期の目的は達成しています。むしろ問題は、個々の具体的な介護サービス、地域において提供されているサービスのシステム体系、ケアやサービスの中身が介護保険が意図したように変革されているのか、変革されていないとすれば何が問題なのかということです。ケア論的な意味で介護保険の実をかたちづくるために、何が課題かを議論したのが、高齢者介護研究会ということになります。

*1) 2003年3月5日に高齢者介護研究会を設置し、外部の専門家の意見を聞きながら10回にわたる会議を行い、2003年6月26日に報告書がとりまとめられました。

高齢者の尊厳を支えるケアの確立
 高齢者の尊厳を支えるケアをどう考えるか、まず一番に報告書に書いてあるのが、ケアモデルの転換です。
 具体的に言うと、痴呆性高齢者のケアを高齢者介護の中心的な課題に据えなければいけません。現在、要介護認定を受けている人が約300万人います。このうち痴呆疾患があることによって、何らかの支援が必要であるというレベルの方が半数、施設入所に関しては全体の8割が痴呆の影響があるという状況です。もはや要介護高齢者の過半数が痴呆性高齢者ということになります。したがって、今までのように身体介護モデルがあって、スペシャルバージョンでは現状にそいません。むしろ、痴呆の問題を標準系とするケアモデルをこれから考えなければいけません。

生活の継続を保障するための新たな介護サービス体系
 痴呆ということを念頭に置きながら、これからのケア体系で何が必要かを考えたときに、この報告書では『生活の継続性』ということを掲げています。つまり要介護になってケアサービスを受けるために、その人の生活の継続性、社会関係、人間関係をあきらめなければならないことがないように、ケアに対する生活の優位性を確立していく必要があるということです。また、可能な限り在宅で過ごし続けることができるように、施設入所になった場合でもできる限り在宅と同じような環境を用意することを考えなければいけません。

1. 在宅サービスの課題
○切れ目のないケア提供の実現
 サービスの連続性を提供するためには、様々な在宅サービスを必要に応じて、提供できるような多機能化した拠点が地域に必要です。
○生活圏域で完結するケアの実現
 施設機能(入所機能)をも視野に入れたケアの連続性・包括性ができれば、ターミナル・ケアの取り組みもできるのではないかと思います。

2.施設サービスの課題
○在宅ケアとの連続性・地域支援機能の強化
 在宅支援をもっと積極的に行い、施設と在宅の穴を埋めて行く。これはいまでもサテライトケアや逆デイで、施設の地域分散として取り組まれています。そのことで生活の連続性やケアの連続性を保障しています。このことは施設を在宅(地域)に近づけることになり、施設を小規模化したり地域分散化していき、在宅の多機能拠点と支援機能を強化していくという方向になります。
○「生活の中のケア」の実現
 施設の中の生活をできるだけ在宅に近いものにしていこうという考えで、個室化やユニットケアということになります。

3.第三の類型(新しい住まいモデルの開発)
○ケアハウス・グループホーム・特定施設・シルバーハウジング・高齢者住宅
 住み替えてそこで終生生活をするという前提で、様々な生活支援・介護サービスを住宅の外から付けていくものです。残念ながら日本では、住宅を福祉や介護といった体系で考えることは弱いです。今まで住宅は生活を支えるための場として議論されてきませんでした。「福祉は住宅に始まり住宅に終わる」という視点で、住宅問題を正面から考えていくことが必要です。高齢者が自分の地域(在宅)で最後まで暮らすことのできる「場(住まい)」と「ケア」というものを考えていかなければいけません。

 

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