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第6.7号合併号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2004年5月25日発行


 
基調講演 「医療と介護の新時代」
 〜リハビリテーション医療と福祉との接点を求めて〜
茨城県立医療大学付属病院院長 大田 仁史 氏
 
終末期という概念を入れる
 良いお世話をしている病院でも、手足が拘縮していたり、開いた口が塞がらない寝たきりの高齢者が入院しています。口が開いていると空気で乾燥し、炎症も肺炎も起こしやすいです。口が開いた方、手足の拘縮がある方が亡くなった場合を想像してみて下さい。死化粧をして入れ歯を入れても口が開いたまま、棺桶に入れる場合も手足が入らないから骨を折らないといけなくなります。ご自身や身内のことを考えて、ご遺体を綺麗にできるかどうかから始まればいいというのが私の思想です。人間すべて最後には死にますが、先程のような痛々しい姿が人間の最期にふさわしいでしょうか。
 リハビリテーションは、リとハビリスという言葉から出来ています。"リ"は再び、"ハビリス"はふさわしい、適しているという形容詞だそうです。今は人間が人間らしく生きるためとか、人権回復の医学とかに使われますが、もう少し明確に身体に引き寄せて考える所から出直しましょう。人間を人間の身体としてふさわしい状態にする、保つというところから始めないといけません。その福祉やケアに力を獲得しようというのが私の考え方です。

予防的介護(生活リハビリ)という概念と手法
 福祉との接点が何となくイメージで湧いてこられたのではないかと思います。『介護予防』がキーワードです。介護保険では『自立』がキーワードになっていますが、あまり自立を声高に言われると自立できない方を切り捨ててしまうことになり危険です。かつてマイケル・トゥーリーという人が、意識性で人を切り捨てたパーソン論を唱えました。「人間は意識性がないと生存権がない」と言った恐ろしい議論でした。それと同じで、自立性がない人は人間ではないということになりかねません。
 リハビリ医療の対象者は、今までは自立する人をよくするといってきましたが、よくならない人もいます。年を取ることもそうですし、進行性疾患の方もいらっしゃいます。良くならない人の面倒をきちんとみていくことを明確に提示すべきです。介護予防の定義の前段は「介護を要する状態を引き起こさないため、介護を要する状態の終点を防ぎ、その軽減を図るため自助努力が必要ということを基軸とした保健医療福祉の立場から行われる多面的なアプローチ」だと言われています。
 でもこれだけでは足りません。自分で自分のことが出来なくなった人に対して、安楽な介護を受けられる状態を保つことも立派な介護予防です。関節などもある程度動かさないといけないし、意識が無いから動かさず寝かせておいても、苦痛がないと思うのは間違いです。身体が反応しているから、反り返って口が開くということを知らないといけません。
 また、不作為による廃用症候群でも床ずれもできます。著しい関節の変形、拘縮の予防、呼吸を最期まで安楽に保つには、タッピング法・シェイピング法・体位変換など色々使えます。そして、一口でも食べたいと思えば、摂食嚥下リハビリテーションをきちんとやり、さらに胃ろうで補えば良いと思います。一口でも口から食べさせてあげるという努力が必要です。
 尊厳ある排泄の確保は、意識があればポータブルを使うのではなく、最期までトイレに連れて行ってあげ、おむつはできるだけ避けます。こういうことをしっかりすることが家族へのケアの基本です。技術的に簡単ではありませんが、福祉の領域でも充分できます。こういうことに向かって、理学療法や作業療法が培った技術、リハビリテーションが持っている技術を福祉の中に移入することをPT、OTに呼びかけています。

地域リハビリテーション
 みんなが一緒に住める地域や街をつくることが大切です。そこに住む賢い人(市民)を育てるだけでなく、その市民をネットワークする新たな仕組みをつくらないといけません。介護保険というのはサービスの一部ですので、そこにないものは他にないといけません。
 茨城県では、『茨城型地域ケアシステム』をつくって、寝たきりのお年寄りや独居老人を見守るチームをつくるとか、ボランティア活動、送迎とかに人件費として年間2億数千万程の予算を投入しています。そして『ユニバーサルデザインの街』として、出掛けたい時にどこにでも行ける街を創っていかなければいけません。
 地域リハビリとは、よりよい暮らしのために地域を変えていくための努力です。茨城県では昨年から『ヘルパー3級取得県民運動』を提唱しています。「ヘルパー3級ぐらいはみんな持とう!老老介護になって、介護する方も介護を受ける方もヘルパー3級ぐらいの資格を持とう!」という運動を始めました。いくつかの市町村が応えてくれました。そこで中学生の総合学習に活用できないかとある議員さんからの発案で、訪問介護養成研修を始めました。養成研修ではお年寄りと中学生が一緒に研修します。また、ボランティアとしてお年寄りの家を訪問し、『いきいきヘルスいっぱつ体操』を一緒にしたりお話をします。そういう経験をすることで、人を思う気持ちやお年寄りを思う気持ちが芽生えていきます。こういう時期からきちんと教育していけばよいと思います。
 だから、『国民ヘルパー3級取得運動』を提唱して、昨年の1月27日に朝日新聞の視点で呼びかけました。全国にはなかなか届きませんが、隣の福島県ではぼちぼち始めています。

■プロフィール■(敬称略)
  大田 仁史 東京医科歯科大学医学部卒業、1973年伊豆逓信病院リハビリテーション科部長、副院長を経て、1995年茨城県立医療大学教授、翌年同大学付属病院院長に就任

<著書・共著など>
『実技・終末期リハビリテーション』荘道社
『地域リハビリテーション言論』医歯薬出版
『目で見る介護予防 いきいきヘルスいっぱつ体操』医歯薬出版
『新しい介護』講談社  その他多数。

<映画・ビデオ>
『いきいきヘルス体操』8巻
『在宅介護の基礎と実践』20巻
『いきいきヘルスいっぱつ体操』3巻  その他多数。

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