第6.7号合併号 NEWSLETTER 大阪地域医療ケア研究会 2004年5月25日発行
基調講演 「医療と介護の新時代」
〜リハビリテーション医療と福祉との接点を求めて〜
茨城県立医療大学付属病院院長 大田 仁史 氏
守るも攻めるもこの一線
茨城県では、これをもっとかわいいシールにして、各ご家庭に一枚ずつ貼ってもらおうと思っています。守るも攻めるもこの一線です。
人間がとれる基本的姿勢は、『臥床』『坐位』『立膝』『起立』の4つしかありません。この中で寝ている時は、仰向けなっている、うつ伏せになっている、横向きになっているだけです。坐っているときは、腰掛けている、あぐらをかいている、横座りをしているだけです。これ以外の姿勢で皆さん方が人に接することはありません。この基本的な4つの姿勢に我々の生活は全部影響を受けてしまいます。たったこれだけのことを知っているだけで全然違いますので、特に福祉関係の方はこれを頭にたたき込んで頂きたいと思います。また、医療機関で特に大きな病院の先生方にも頭に入れて欲しいです。
寝ているとか座っているとかで、この線を守ったり攻めたりしないといけないのかといいますと、守る方は右の矢印を見て下さい。要するに年を取っていくと誰でも徐々に立ったり、歩いたりするのがうまくいかなくなります。それでも坐ることが出来るだけで寝ているのとでは大違いです。何故かというと、行きたい時にトイレに行けるという、人間としての最期の尊厳が守れるからです。意識性が高い人達はいろんなことを考えますが、これが私の考える尊厳で、この線で保障されるかどうかがきまります。寝ていればおむつか便器になります。座ることが出来ればトイレに行ける可能性が高いということです。
この坐るとは『背面開放端座位』、背もたれなしで坐れるということです。病気になった時は出来るだけその線を越えたところに持っていきましょう。
寝ているとは骨盤が寝ているということです。眠るのは頭で、寝ているのは骨盤と皆さん覚えて下さい。骨盤を寝かせてはいけません、骨盤を早く立てて下さい。疾患によって違いますが、絶対に寝かしておかなければならない重度の疾患の人は、そう多くはありませんので早く坐らせるようにしましょう。
特別なことがなければ、意識が少々落ちていても4日以内に坐らせることが重要です。それは大便が出るからで、頭がしっかりしたお年寄りほどおむつを使うと変になります。東京の離島を訪問した時にお会いした100歳のおばちゃんは、歩けませんが這って和式のトイレで用を足していました。それは骨盤が立っているから出来ることです。そして、道行く人に声をかけて立派な社会参加をしています。
頭に入れておかなければならない参加とはパーティシペイションです。パートとは『部分』、シぺイトとは『場を取る、場を占める』という意味で、どんな状態であっても社会の一構成員として認められるということです。
別の医師会に呼ばれて講演に行った時の話です。往診に呼ばれた先生が、訪問先のおじいちゃんがいなかったので尋ねると、押入れの中で寝ていたということがありました。こんなところにいて社会参加は出来ません。外へ出て人と目線を合わせて始めて社会参加といえます。ここのところを最低限押さえることが大切で、ただ自立すれば良いと言っていては、何時までたっても下の方にシロップが降りてこないで溶けてしまいます。
越えねばならぬこの一線
超えてはならぬ一線もありますが、『越えねばならぬこの一線』もあります。超えねばならぬこの一線をなぜ点線にしたかといいますと、老人ホームや老健などでは、部屋から出てみんなの所に来るという意味も含めてこうしました。介護の軽い重いは人間関係の違いで決まると思います。娘が母親を面倒看るのとお嫁さんが親を面倒看るのと、どちらに力がいるかわかりますね。プロはテクニックで軽い重いというのが決まります。そして、少しの間、背もたれなしの座位が保持できるということは、便器の上できちんと座れるということです。脊損の方ですと30分ぐらい座っている方もいます。
次は長時間座位が保持できるかどうかですが、長時間とは目的によって違います。家からデイサービスに行く時は、30分か40分位座っていればいいのですが、旅行ではかなりの時間座っていないといけないので車椅子に座っているように背もたれがあるほうがいいです。大事なのは軽い介助で立ち上がれるということです。軽い重いは先程言った通り、人間関係や技術でも違いますし、人の重さでも違います。少しの間でもつかまり立ちが出来、しがみついてでも立つことが大切です。それによりトイレに行った時にパンツの処理が出来ますし、外出も出来ます。外出できれば社会参加というか仲間に自分の身体で主張することができます。人の目に触れることがいかに大事かということです。
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