【2007年度 在宅医療塾 実践編2】 第1講 今問われる在宅医療の本質 ―新在宅医療とケアマネジメント―
中嶋 啓子 氏 大阪地域医療ケア研究会会長 (医)啓友会 なかじま診療所 院長
今日は基本的な「在宅医療とケアマネジメント」の話をいたします。タイトルで今までとはひとつ違っているところがあり、『新』在宅医療です。決して新しいということではなく、何か変わった医療を提供するという事でもありません。だた、時代は変わってきており、その認識のために『新』と付けました。
在宅医療時代へ 在宅医療は「良い先生がいるからできる」とか「医療を提供しやすい所にいるからできる」というニュアンスでしか捉えられないマイナーな世界ですが、患者さんや家族さんにとってはメジャーな世界なのです。私たちはその方々の暮らしの中での悩みや老いなどに触れながら多くを学び、「やっていて良かった!」と思うことがよくあります。時代はその在宅医療を要請しています。同時に在宅医療は、医者と看護師だけの仕事ではありません。多職種協働でいろいろな方(職種)が関わらないといけない世界です。 介護保険制度導入から5年が経過し、去年から新たなサービスとして、介護予防や地域密着型サービスとして小規模多機能居宅介護ができました。介護保険制度と同時に医療保険制度も変わり、医療も新たな段階(在宅医療推進)にきています。 国立長寿医療センターに厚労省の推進で、在宅医療推進会議が組織されました。一つは在宅医療を中心とした勇美財団(株式会社オートバックスセブン特別顧問住野勇氏の寄付により設立された助成財団:在宅医療を推進し、もって国民保健の向上に寄与することを目的)で、それまでは別々に推進してきた、全国在宅医療推進連絡協議会、在宅医学会、プライマリケア学会、在宅ケア・ホスピス協会、私も所属しております在宅ケアを支える診療所全国ネットワークをまとめ、在宅医療をひとつの柱にして推進してきたことが評価されたのです。 もう一つは、医師会が方針を掲げてきました。それは、在宅における医療・介護の提供体制ということで、我々が思っていた生活、暮らしの中での医療を行っていくことの大切さ、基本的理念としてかかりつけ医機能への指針として出してきました。 これまで在宅医療の実現は困難な世界でした。ハード面、ソフト面とも大変でしたが、ハード面では選択すれば実現できる時代になったのです。
在宅は最高の贅沢から誰でも選べる在宅へ 次に介護体制です。家族だけに任せず『介護の社会化』が必要です。多くの人(ヘルパーさんや看護師さんを含めてみんな)で看ていくということ抜きに実現しません。在宅医療は個人の生き方として家族と共に、在宅が実現できる最高の贅沢といえます。 私は在宅でがん患者さんに輸血をしたことで、有名な看護師さんから批判を受けたことがあります。「輸血をするというのは病院の考え方で、在宅ではしない」と言われました。でも、私は在宅でも自分達がどういう治療を選ぶかは自由だと考えています。輸血をしたのには理由があります。極度の貧血のため「苦しい、痛い」という訴えがあり、家族にはどうにかして欲しいと言われ『輸血』を提案しました。血液といっても血液銀行からのではなく、家族の血液です。それに対して家族の人は「やって下さい」ということでした。在宅で行う医療の中で、家族あるいはご本人、それから我々関係者が三つどもえになってやっていくことではないでしょうか。
2038年問題をみすえて 今年は『2038年問題を見すえて、終末期医療と介護を考える』をテーマにしております。なぜ厚労省が在宅医療を進めようとしているのか、大事なポイントはここにあります。2038年は団塊の世代が高齢化により亡くなっていき、最高の170万人が亡くなるといわれています。170万人をどこで看取るのかが問題です。全員病院では死ねません。今は病院で亡くなる方が8割で、在宅(施設を含めて)は2割です。これは由々しき問題だと厚労省が考えたのです。50年前は在宅で亡くなられる方が8割、病院が2割でしたが、高度な医療の発展とともに病院死が8割になったのです。したがって、自分にとっての最後はどこで暮らしてどこで死んでいくのかこれからの身近な課題になってきたのです。 人間が治らない病気に出会ったり、避けられない死というものを前にした時、受ける医療は病院での治す挑戦的医療ではなく緩和医療です。人間にとって死はさけられず、いずれ亡くなるという意味では緩和医療ケアがターミナル医療の中心を占めることになります。あなたの病気ががんの場合、治療の術がないと言われたら「あなたは在宅医療を選びますか?」自分の問題として考え勉強して下さい。
在宅医療の進め方 在宅医療の進め方ですが、在宅で医療を行う場合入り口はいろいろあります。 医療はケアマネジャーのアセスメントやケアプランと平行して、看護計画、医療計画に基づいて行います。どのようにアセスメントをし、どのようにケアプランを立てて移行していくかが大切です。 医療関係者と介護関係者が向き合って一つの医療ケアプランなり、ターミナルのケア提供を組み立てていく必要があります。何よりも大切なのは、サービス担当者会議、ケアカンファレンスです。その人の終末期の判断は、サービス担当者会議を繰り返し行うことが有効と言われています。 モデルとして、尾道市医師会方式ケアカンファレンスといって、地域の一体的なケアマネジメントシステムを構築し、効率的で包括的な医療ケアを提供しています。 急性期病院から退院してそのまま在宅になる人もあれば、回復期、慢性期の病院から退院して帰られる方、老人保健施設でリハビリを受けて帰られるといういろんなコースがありますが、それぞれの間でケア会議(サービス担当者会議)が行われていて、情報が提供されていれば在宅での療養は豊かになります。病院から退院をされる方に退院時カンファレンスがありますが、その方が持っている生活感も含めて最初の退院時カンファレンスでいろんな事が見え、患者さんとの信頼も深まり重要です。私は忙しくても絶対参加するようにしています。