医療事故調査会


医事関係訴訟委員会への要望書
■全事例
 

事例 2)

1.事案の経過

 分娩予定日を13日過ぎた日に陣痛発来し、入院したところ、子宮口開大9cmまでは順調に進行していたけれども、夜間帯に入ると分娩が停止した。そのまま医師の診察もなく、翌朝午前7時15分に分娩監視装置を装着してみると、胎児仮死徴候が出現していた。
しかし子宮口全開大になっていたため、担当医は分娩促進しながら午前9時51分に経膣分娩をさせた。1分後アプガ−スコアは5点の新生児仮死。無呼吸・徐脈・チアノ−ゼを経て、頭蓋内出血から脳性麻痺、小頭症へと進行した。

2.判決の内容

・ 昭和58年の事件である点、僻地病院であること、いわゆる一人医長であることを重視すると明言している。
・ 分娩停止したときに、診察もせず経膣分娩続行の方針をとったことは医師の裁量の範囲内である。
・ 胎児仮死は軽度であったから、急速墜娩すべき状況ではなかった。
・ 新生児仮死と小頭症の因果関係は不明である。

→ 裁判所鑑定よりもずっと後退した内容となった。裁判所鑑定では胎児仮死も認めているし、分娩遷延していたのを放置したのは許されないとしている。胎児仮死と小頭症・脳性麻痺との因果関係は不明としていた。ただ、裁判所鑑定は鑑定書の別の場所では胎児仮死はなかったとしており、また夜間に医師が診察しなかったのもかまわないと二枚舌を言っているので、裁判所は、その二枚舌の一枚を使ったものと考えられる。

3.各意見書の判決への影響度

 裁判所鑑定 → 100%
 当会 意見書 → 0%
 ただし、当会提出の鑑定書を採用しないと何ヶ所にも断っているので、まるで無視したというのでもない。医師としての経験年数が短いため意見書そのものの価値が低いと判決中に書かれている。

4.感想(当会 鑑定医)

・ 裁判所鑑定はA4用紙3枚の簡潔なものである。簡潔すぎてわかりにくい。結論を書いてはいても根拠が示されていない。しかもあい矛盾する記述が多い。全体として原因不明論に終始している。証人尋問での受け答えと鑑定書とがずれている。
・ 脳性麻痺の原因について考察すべきであるのに、小頭症の原因が何かを最大の問題として論じているのは不適切だと私は思う。
・ 裁判所鑑定は被告の責任を肯定しているかのようにも読める玉虫色の鑑定書である。
・ いわゆる一人医長の問題が産科事故のかなりを占めている、その1例である。医療事故がおきる構造がここにあると思う。

 

| BACK | NEXT |
 


| HOME | 趣意書 | 会規約 | TOPICS | 過去のシンポジウム |

医療事故調査会