私達は、これまで個別に求められるままに医療上の過誤があったかどうかが争われているケ一スについて、意見書(私的鑑定意見書)あるいは裁判所からの命令による鑑定書を作成する経験をしてきました。個々の医療過誤のケ一スについて、第三者として客観的に事実関係を調査し、行われた医療を評価する過程で、様々な医療過誤の実態をつぶさに知ることとなりました。
医療過誤は単純なミスから生ずるものもあれば、未熟な臨床判断と適切な処置の遅れによって生ずるものもあります。そして医療過誤は、診療科を問わず、医療機関の設立主体、規模の大小を問わず、医療という複雑なダイナミックなシステムの中で、いつでも起こりうる危険性をはらんでいます。そしてその背後には、日本の医療が抱える構造的問題や、医学教育の問題があることも指摘せざるを得ません。他方、医療被害者は残念なことに今日もなお社会的に救済されているとは言えない状況に置かれています。
医療過誤のケースにおいてはまず患者・家族の申立による証拠保全、そして第三者による調査・評価という手順で実態の把握が行われることになります。しかしながら、過去の事例について限られたデ−タをもとに、独断に陥ることなく、公平にまたその時々の科学の水準に照らして客観的な評価を下すことは、おのずから一人で行うには限界があり、より信頼度の高いシステムを作り上げていく必要性があります。
そこで、今般医療事故の調査や、医療記録の検討、意見書作成、鑑定等に関わった経験を有する各科の医師等が結集して、医療事故調査会を発足させることになりました。医療事故調査会では、依頼された各医療過誤のケ一スについてそれぞれの専門領域からみてふさわしい医師等複数人によって、客観的な調査・評価を行い、鑑定意見書を作成するとともに、各ケースに関し明らかとなった問題点を解析し、今後の医療の改善のための具体的な提言をも行っていくことにしました。趣旨に賛同下さる医療専門職の方々の積極的な参加を心から願っております。