事例 1)
1.事案の経過
骨盤位で、前期破水した妊婦の出産管理のケース。コルポという器具を膣内に挿入して子宮口開大をはかりながら、陣痛促進剤を点滴投与していたところ、コルポが突然脱出し、直後から胎児徐脈が発生し、緊急帝王切開を施行した。胎児は新生児仮死で生まれ、低酸素性虚血性脳症に罹患し、10ヶ月後に死亡した。
2.判決の内容
コルポの脱出という予測不可能な事態が起こり、それに対して、約35分後には緊急帝王切開術を実施したのは、開業産婦人科医院としては十分な医療行為を尽くしたと判決は述べる。
→医療事故調査会 鑑定医の判決批評
コルポという道具は本来的に脱出しやすいものであるから、よくよく気をつけて使用しなければならない。被告医院では、100件に1件の割合でコルポ脱出がこれまでにも起きているという。判決はそれを稀であると判断した。100に1つの事故を稀だと判断している点で疑問を残す。
3.各意見書の判決への影響度
裁判所鑑定(市立大学教授) → 100%
被告側鑑定意見書(県立大学教授) → 50%
原告側鑑定意見書(国立医療センター) → 30%
当会 鑑定意見書 → 0%
4.感想と意見(当会 鑑定医)
簡潔で断定的な裁判所鑑定書が終始、裁判所の考え方の先導役を果たしたと言える。その後に出された原告側の鑑定意見書はほとんど顧慮されることがなかった。
陣痛促進剤の適応に関して、裁判所鑑定は、禁忌とする事情がないから、投与は適切とする。
しかし、これは逆転していると私は思う。陣痛促進剤は万病の元だから、積極的な適応の理由が必要である。本件では、その理由が存在しないと私は思う。
また臍帯脱出はおよそ事前には診断できないのだから、不可抗力であると裁判所鑑定は述べる。また判決も内診しても臍帯下垂・脱出はわからないのだと言う。しかしながら、超音波検査を利用するならば、相当程度診断し得ると私は今では考える。先に意見書を作成するときには超音波検査の利用については述べなかった。
私の証人申請が原告側代理人より提案されたが、被告側代理人が何としても承諾せず、実現しなかった。このことがいくらかは本判決に影響していると思う。
|