事例 9)
1.事案の概要
市が委託した乳がん検診において、乳がん原発病巣(推定で直径1cm)を見落とされ、6ヶ月後に自覚症状から乳がんを発見。手術するも、まもなく肝転移が生じ、死亡したものである。
2.判決の内容
請求棄却。
複数のCT検査結果より、肝転移の成長スピードを計算し、それを原発病巣に当てはめて、検診時におよそ1cmの腫癌が存在していたと推定した。したがって見落としはあると。
しかし小さな乳がんを、100%の場合において触知することはできないので、見落としたことが過誤にあたるとしても、過失とまではいえないとした。
3.各意見書の判決への影響度
裁判所鑑定や被告側私的鑑定から特定の文言を引いて「過失なし」といったわけではないので、表面的にみると、両方とも判決への影響はほとんどない。
ただ裁判所鑑定は、乳がん検診では見落としがあっても仕方がないというトーンで貫かれているので、裁判官の心理面に影響を与えた可能性が高い(数字で表すのは難しいが、おそらく因果関係があるので60%以上)。
被告側私的鑑定は、ほとんど影響を与えなかったであろう(0%)。
4.感想・意見(当会 鑑定医)
裁判所鑑定:聞かれてもいないこと(検診体制はもともと不十分である、検診をうけていれば助かるというようなものではない等)を長々と述べ、被告をかばいすぎている。
被告側私的鑑定:大学人によるものだが、おおむね合理的。
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