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第8号合併号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2004年10月10日発行


大阪地域医療ケア研究会第3回セミナー
2004年2月29日(日) 午後13時〜17時/大阪府福祉人権推進センター
 

講演&ワークショップ

「どうすれば痴呆高齢と適切にコミュニケーションできるか?」
〜バリデーションは援助的コミュニケーション(カウンセリングの基本スキル)からひも解くと簡単になる〜

梁 勝則 氏(はやしやまクリニック院長、日本ホスピス在宅ケア研究会事務局長)



ホスピスケアについて


 私はこの会の中嶋会長とほぼ同時期に神戸市の長田区で開業しました。現在の高齢化率は24%位で、神戸市の平均18%をかなりうわまっており、開業医として老老介護のターミナルケアや在宅ケアを中心に活動しております。
 在宅や外来でも最近痴呆の方が増えてきまして、痴呆の方や癌の方を両方見ていますと非常によく似ていることに気がつきました。どういうことが似ているかと言いますと、まず一番目に治らないということ。
 二番目に苦しいということ。癌の方は四つの痛みを持つと言われています。『身体的な痛み』『社会的な痛み』『心理的な痛み』『スピリチャルな痛み』。この四つの中の『スピリチャルな痛み』『心理的な痛み』というのは心の痛みの苦しみです。一方、痴呆の方は非常に心が苦しみます。呆けたら幸せだと言うのが、ちょっと前の私達の常識でしたが、実は呆けた方の心というのは非常に苦しいのです。自分が記憶を失って行くことに気がつき、その記憶を失い奇妙な行動をとることによって、周囲から非難されたり攻撃されたりあざけられたりします。自分がうまくできず、物忘れがひどいことに気がつき、かなり進行するまで苦しみます。
 三番目に心です。心のケアは精神的なサポートを適切に行うと症状が良くなります。癌の方のスピリチャルな痛みや心理的な痛みは心のケアをおこなうと良くなりますし、痴呆の方は心のケアを適切におこないますと非常に良くなります。この心のケアのやり方が今日ご紹介しますバリテーション法であります。
四番目の共通点といたしまして 死期がそう遠くないということです。癌の方で末期の場合は数ヶ月から長くても半年ぐらいでお亡くなりになりますし、痴呆の方の寿命単位は違いますが、多くの方は数年から十数年で亡くなられます。
 命の失い方ですが、末期癌の方はまず肉体的生命を失い、その後社会的生命を失います。それに対して痴呆の方は、肉体的生命を失う前に社会的生命を失ってしまいます。社会的生命と肉体的生命の順序の違いはあれ、生命を失うというところで共通しています。
 以前から私は、ホスピスケアの定義をもう一度見直した方が良いのではと思っていました。つまり、あらゆる終末期における身体的及び精神的苦痛の緩和という風にホスピスケアを定義し直すことが適切ではないかと思っています。日本の狭義のホスピスケア、つまり厚生省から認可されたホスピス緩和ケア病棟におけるホスピスケアは癌とエイズのみを対象にしており、実際にはエイズの方はほとんど利用していません。99.9%癌の末期の方が過ごす施設になっています。イギリスでは神経難病の末期も広義のホスピスに含まれています。アメリカのホスピスケアの定義は更に幅広く、予測生存期間が6ヶ月以内の人であればどんな疾患であろうとも、例えば心臓病であろうと痴呆であろうとホスピスケアの給付が受けることができます。日本においてもホスピスケアを再定義すれば、その人の人生最後のステージ、ファイナルステージを支えるシステムやサービスを考え直すことで、痴呆や寝たきりの方もホスピスケアの対象になってくるのではないでしょうか。

痴呆の問題行動について

 呆けても問題行動を起こさない方は結構います。
1.これまでのほとんどの人生の問題に立ち向かい、妥協が出来、人生の重荷が少ない人。
 失敗やミスを犯したり、夢が叶えられなくても事の成り行きをそのまま受け入れ、自尊心を持ち続けることができる人。
2.他人を信頼し自分の過ちを認められる人。
3.過去をくよくよ思い煩わず、想い出として楽しむことができる人。
4.中年期以降に起こる様々な喪失、自分の身体の衰えや老化やあるいは愛する者の死といったものを乗り越えてきた人。
5.心の底にある自分の感情を表現できる人。
 悲しみとか嬉しさとか、そういった感情を表現できる人。 以上のような人は問題行動が起こりにくいです。あとは生きることへの情熱を持ち続けることができる人。新しい人間関係をつくることができる人。閉じこもり傾向ではなく、新しい人間関係をできる人は、痴呆になっても問題が発生しにくいとナオミ・フェイル*1さんは言っておられます。

バリデーション*2のテクニック
バリテーションの技法の数が非常に多く、全部で14ありますので、言葉でご説明します。

技法 1 センタリング。
 精神統一をし、集中して、雑念を取り払い除けてその人に対応する。

技法 2 相手の主張する事実に基づいて対話する。

技法 3 リフレージング。
 相手の言葉を繰り返す。 

技法 4 極端な言い方をする。
 相手の気持ちを認める。

技法 5 反対のことを想像する。

技法 6 思い出話をする。

技法7 真心を込めた笑顔のアイコンタクトを保つ。
  つまり真心込めて視線を合わせる。

技法 8 相手に合わせて曖昧な表現を使う。

技法 9 はっきりとした低い優しい声で話す。

技法10 ミラーリング。
 相手と同じような行動をしたり、相手と同じ心理状況に自分を置く。

技法11満たされていない人間的欲求と行動を結びつける。
 高齢者の一見理解できない行動は下記の3つに結びつけられることが多い。
愛情(愛すること愛されること)が満たされる。役割を見出せる。感情を発散させる。

技法12 相手の好きな感覚を用いる。

技法13 タッチング。スキンシップです。

技法14 音楽を使う。

以上の技法1〜14までずらっと読んでもあまり頭の中に入り込まないと思います。


援助的コミュニケーションの三原則

 私は癌の方のターミナルケア或いはアフターケアを現場で行っており、そういう所では援助的コミニュケーション三原則の方法論でケアを行っております。ある時バリデーションがこの援助的コミニュケーションの三原則によく似た方法論であることに気づきました。
 援助的コミニュケーションの三原則、これは実はカウンセリングの最もベースとなる『傾聴』のやり方です。三原則ですから三つしかございません。
1.聴くこと。傾聴すること。
2.反映すること。
3.質問すること。
 援助的コミニュケーション、その人を支えるためのコミニュケーションの三原則からふれるやり方は、例えば、アドバイスすることは実は援助的コミニュケーションから外れています。介護職、医療職の方も多いと思いますが、アドバイスを出来るだけ控えることが患者さんとコミニュケーションを取るために重要なポイントです。アドバイスや指示や命令、そういった上から下へ向かうやり方のコミニュケーションを控えることが重要なポイントです。アドバイスをして良い局面は、その人がアドバイスを求めている時でなおかつ、そのアドバイスが客観的事実に基づいている時です。間違いのない正しい事実に基づいている場合は許されます。それ以外、主観的なアドバイス。例えば「そんなにくよくよしていたら生きてられないよ」というような主観的なアドバイスはしない方が良いでしょう。これは痴呆がある、なしに関わらず、主観的なアドバイスというのは間違えるとひどい目に遭いますし、そのアドバイスに従って何かを実行した場合、その人の自立能力がそがれてしまいます。
 援助的コミニュケーションの三原則で『傾聴』と『反映』と『質問』ですが、『傾聴』とは、相手が話し終わるまで最後まで聴き、相手がこちらを見たら優しい笑顔で視線を合わせ、うなずきや相づちを打ちながら聴くということです。つまり肯定的に聴く、これが傾聴です。
『反映』は、相手の言葉を映す。映すというのは4つぐらいあるんですが、今日は痴呆性高齢者とのコミニュケーションですので、4つのうち2つだけを。一つは相手の言葉を繰り返す。相手の言葉全部ではなくて、相手の言葉の中の重要な言葉を繰り返すということが反映です。もし余裕があってその人の痴呆の症状が軽ければ感情を映すことも出来ます。「うれしかったですね。」「悲しかったですね。」とか「辛かったですね。」と感情を映すことができます。
そして『質問』ですが、開かれた質問や、閉じられた質問をするということです。この傾聴と反映と質問の中にバリテーションの14技法のほとんどが組み込まれます。痴呆が進んでコミニュケーションが困難になった時、つまり、言語的コミニュケーションが困難になった方に対する、非言語的コミニュケーションの仕方が技法の8から14です。言語的コミニュケーションのできる方のコミニュケーションは、技法の2から6までです。
 技法の2というのは相手の事実に基づいて話すということですが、これはカウンセリング時でも友達との会話でも共通する基本的なコミニュケーションの態度です。
 例えば、あなたの友達が「今日、財布取られちゃった。」と言ったときに「嘘でしょ?」と皆さん友達には言わないでしょう。つまり、相手の事実に基づいて話すときは、「今日、財布取られたの?」と言いますね。相手が事実だと言っていることに話す態度が基本的コミニュケーションです。それからアイコンタクトする。視線を合わせるということもコミニュケーションの基本的な態度です。技法9のはっきり低い優しい声で話すというのもコミニュケーションの基本的な態度です。こういう基本的な態度があって、あとは傾聴と反映と質問の三つだけです。痴呆高齢者とコミニュケーションをとる時も相手の話が終わるまでちゃんと聴き、傾聴する必要があります。相手の話を途中で遮ってしまうと相手が話をしながら頭をまとめているのがまとまらなくて、また同じ事を相手が話をします。相手の話を最後まで聴くということが基本的な態度です。
そして、リフレージング、相手の言うことを繰り返すとか極端な言い方をするとか、技法3、4は反映の仕方です。質問の中に入るのが技法5,6です。技法5は反対の場合が起きたことを想像する。技法6は想い出話をする。これは何かと言いますと昔話をして楽しむのではなくて、過去に同じ事が起きたときの感情や対応を想い出していただいて新しい出来事について対処出来るようにするということですが、それが思い出話をするということです。技法2.3,4,5,6がマスターできると言語的コミニュケーションが出来る痴呆の方だと少々ひどい方でもたいてい上手くいきます。逆に言えば、この傾聴と反映と質問、これがまず上手くいかないと次が上手くいかない。特に傾聴と反映が上手くいくと次が上手くいきます。

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