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第2号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2003年3月20日発行    (3)


 
大阪地域医療ケア研究会 第1回セミナー
 
  報告 II  
岡崎 和佳子(菜の花診療所:看護師)

◆ 菜の花診療所の実践報告 ◆


▼菜の花診療所のなりたち

 1991年に「みんなで創ろう、みんなの診療所」ということで設立準備会を立ち上げ、1年間で全国から450名の出資・寄付により、7千万円の資金が集まりました。北は北海道、南は沖縄まで実際に診療所の医療を受けることの無い方による真心と熱意により、菜の花診療所は誕生しました。1992年の年末にオープンして10年が過ぎ、現在は、外来診療と在宅医療、在宅ケア(訪問診療、訪問リハビリ、訪問看護)を行っています。

▼大阪市生野区の特徴


 大阪生野区は、ほんとうに下町で消防車や救急車も入れない細い路地が多く、訪問診療に行くときは、自転車で回らなければ行けない所です。逆に人情がある土地柄で、障害者グループホームや作業所がたくさんあり、活気のある街です。
 高齢者人口は約3万人で高齢化率17%、要介護認定者数は6,157人(2002年12月)、これは大阪24区の中で一番多く、高齢者人口も3位となっています。高齢者の数も多いのですが、居宅介護支援事業所や施設なども非常に多く、また、診療所、薬局も多いため激戦区となっています。

●居宅介護支援事業者
47ヶ所
●居宅介護サービス事業所
訪問介護
44ヶ所
特養ホーム
7ヶ所
通所介護
17ヶ所
老健施設
4ヶ所
通所リハビリ
6ヶ所
療養型
7ヶ所

▼活動状況

 下記の表をご覧いただければわかるように、非常に在宅中心(往診、訪問診療、訪問看護)の診療所であるといえます。この10年間で、在宅で看取った患者さんは50人で、昨年は7人、今年は1人となっており、2ヶ月に1人のペースでターミナルの患者さんを看取っています。

外来患者数
 月平均 約550人
 日平均 60〜70人
 訪問診療 約120件
 訪問看護 約380件
 訪問リハビリ 約 35件
 ケアプラン 75件
 これまで在宅で看取った患者 50人
スタッフ数
 医師 3人(2人)
 看護師(ケアマネ兼務) 9人(5人)
 理学療法士 (1人)
 作業療法士 (1人)
 事務 5人 (3人)


▼診療所だからできること

 診療所の利点は、小回りが利くということです。ドクターがすぐそばにいるので、必要な時に必要な治療とケアがその日のうちに、すぐに行えます。

▼実践報告 M.Sさんの場合
     78才 病名  脳梗塞後遺症
         大腸癌術後(人工肛門造設)
         脊髄小脳変形症
     要介護 5 主介護者 娘

●1993年から訪問診療と訪問看護利用
・週2回訪問看護と身体介護(入浴)
・金曜日は通所介護で入浴
・ショートステイ 7日〜10日/月
・褥瘡予防マットのレンタル
・訪問診療 内科2回/月 眼科2回/月
        歯科 1回/月  

●2003年1月のスケジュール

 3日 緊急訪問看護 入院(レイウス)
 8日 家族より相談気管切開を進められるが拒否自宅へ帰ることを希望
10日 病院へ面会、退院の方向へ主治医・婦長と面談在宅酸素・IVH発注
13日 在宅酸素設置
14日 退院、訪問看護(13:00-15:00)主治医(菜の花)往診 ケアマネ同行 酸素3L/min
15日 食事訓練開始/訪看IVH・全身清拭・褥瘡処置
    この10日間で背中・背骨部に褥瘡ができる
16日 IVH・洗髪・処置/訪看 17日 IVH中止/訪問診療(ケアマネ同行)
    バルーンカテーテル抜去 酸素2L/min
18日 リハビリ開始/訪看 酸素1L/min全身清拭・手・足浴・ガーゼ交換
20日 リハビリ・ガーゼ交換/訪看全身清拭・手・足浴
21日 訪問診療
22日 リハビリ/訪看洗髪・ガーゼ交換(褥瘡消失)
23日 リハビリ/訪看全身清拭・手・足浴 27日 シャワー浴/訪看(NS 2名対応)
28日 訪問診療
30日 シャワー浴/訪問看護(11:00-12:30)食事介助指導(ヘルパー)
31日 通所介護(10:00-16:00)

 退院後3週間で入院前の生活スタイルに戻すことができました。しかし、10日の面談では、病院の主治医から「これは自殺行為だ、こんな人を連れて帰ったらこの人は死んでしまう、あんた達は何を考えている」と言われました。でも、娘 さんは「死ぬのなら家に連れて帰りたい」という思いが強く、私たちは「それなりの覚悟をしましょう」ということで、退院をしました。
 M.Sさんが入院前の状態に回復できたのは、自宅という住み慣れた場所で、自分にあった生活(好きな時間に好きな食べ物や好きなこと)ができたからです。


▼まとめ

1.その人らしく
 M.Sさんのようにその人らしく過ごすこと、臓器を治療しただけではその人は元気にはなりません。そして、日常生活は理屈道理にはいかず、生き方、暮らし方は人それぞれです。ですから、在宅においては患者さんや家族が主人公であり、私たちはただ、寄り添っていくことだけなのです。
 また、在宅ケアは待つことが必要で、時期を逃さないことが大切です。

2.きめ細やかに
 診療所だからできるきめ細やかな対応で、利用者や家族にとって一番良いと思える、あらゆるサービスを提案すること。(各種制度や助成、自治体の福祉サービス等)
 退院直後の急性期は、安定するまで十分な看護をすること。
 ターミナルケアに関しては、家族が本人を支える介護体制を作ることが必要です。また、亡くなった後の家族のケアも大切なことです。
 例えば、死亡診断が下された時に、ご家族と一緒に時間をかけて清拭や化粧をします。その時間は、亡くなった方の思い出話をして、「よく看取ったね、これが一番よかったね。」というメッセージを家族に伝え、ご家族には、自宅で看取ったことの自信を必ず感じてもらうようにしています。

3.選ばれる診療所となるために
  他にはない特徴を出すことです。菜の花診療所 の場合は、極め細やかに対応する以外に、入浴に 力を入れています。体が汚くなると人として生き る意欲を失うため、入浴は人としての尊厳を守る 手段のひとつです。私は入浴を一石三鳥の看護だ と思っています。一目で全身の状態がチェックで き、皮膚の観察やADLの確認もでき、裸のつき 合いなので本音が聞きやすく、信頼関係がつくり やすい看護だと思います。 あとは、地域の社会資源を上手く活用しています。近所にある個人商店(お惣菜、ケーキ、果物店等)など、一度利用すると次から電話1本だけでご利用者宅に届けてもらったり、診療所から発信することで地域の中にある社会資源を上手く活用でき、その方の生活の質の向上につながると感じています。

4.理念を見失うな
  ついつい診療所の経営を優先に考えてしまいますが、やはり利用者(患者)の立場に立つことでしか生き残れないということをこの10年間に感じてきました。菜の花診療所は、何回も経営の危機に直面し、潰れそうになった事があります。そんな時に裏切らなかったのは患者さんです。いつも患者さんが診療所を利用して下さったおかげで、ずっと続いていると感じています。囲い込みをせずに患者さんのことを中心に考え、プランを作ってきたからだと思っています。

5.情けは人のためならず
  今の高齢者が幸せにならないと私たちの老後はないと思います。地域全体が豊かになるように診療所は色々な情報を発信し続けないといけません。地域の医療やケアは自分づくり、人づくり、地域づくりであり、自分に将来返ってくる事だと思っています。

6.未来へ
 今後の課題ですが、後継者を作っていくということです。また、地域連携と利用者へのトータルサービスをどのようにしていくか。あとは、社会資源の掘り起こしや活用(人、場、ネットワークの構築)などが大きな課題です。

最後に、つらい時ほど理念を忘れずに生きていきたいと思いまして、日野原先生の言葉を紹介させて下さい。

『まず与えることから始めよう。富のあるものは富を、才のあるものは才を、時間のあるものは時間を。しかし、なんと言っても人が人に与える最高のものは心である。他者のための「思い」と「行動」に費やした時間、人とともにどれだけの時間を分け合ったかによって、真の人間としての証がなされる。』

 日野原 重明 「いのちの言葉」


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