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第17号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2007年9月10日発行



 「大阪地域医療ケア研究会」の2007年度総会を7月29日に、大阪府福祉人権センター(ヒューマインド)で開催しました。
 総会では、中嶋会長の挨拶をはじめ、来賓の方々からもご挨拶をいただき、2006年度の事業報告・収支報告ならびに、2007年度の事業計画案・予算案の提案がありました。今年度も引き続き、「地域で支える医療とケアが連携した総合的な生活支援システムとネットワークの構築」を目指して、研究や情報発信を行っていくことを会員の皆様に承認いただきました。

 



大阪地域医療ケア研究会2007年記念講演
家で看取る困難と喜び「在宅ポスピス」17年の経験から

小笠原 一夫(ペインクリニック小笠原医院)


在宅ホスピスの出発点


 私がホスピスに関心を持ち始めたのは、25年ぐらい前です。麻酔科医長として、長野県のある大きな総合病院に赴任したときです。赴任した翌日にある方の痛みの治療を依頼されました。その方は上顎癌で、痛みで苦しんでおられました。私が赴任をしたのが6月1日です。3月ぐらいから痛みがひどくて、当時痛みに対してソセボンという注射をしていました。このソセボンは、最初はよく効くのですが、段々と効果時間が短くなり、半日効いていたのが 4時間になり、3時間になり2時間になりと頻繁に痛みを訴えるようになります。どの病棟でも痛い、痛いといって一晩中苦しがっている患者さんが一人か二人必ずおられ、そういう中で亡くなっていくというのがあたりまえでした。何とかしたいと思い、ブロック治療という技を持って三叉神経の根本に針を一本刺して、そこに薬を入れればピタリと痛みが止まると頭の中に想定していましたが、その方は骨が崩れていて全然近寄れなかったのです。そこで、当時はめずらしいモルヒネを内服で飲ませるためにプロンツトンカプセルを薬局に頼みました。しかし、薬局ではモルヒネは使わないで、棚の奥の方にしまっており、無理を言って作ってもらい、それを患者さんに飲んでもらいました。1時間後に、「先生嘘みたいです。痛みが全然なくなりました。」ということで、私は大変満足しました。
 麻酔科医の日常業務に追われて日々過ごしていたのですが、1週間後に、ふとその患者さんの事を思い出しました。その後の痛みはどうだろうか、うまくやっているのだろうかと思いながら病棟に行きました。部屋に行く前にナースセンターに寄って記録を読むとビックリしました。良かったのは最初の1日だけで、あとは吐き気でとても薬を飲めないということでした。その横に患者さんの書いたものが張ってありました。『自分は麻酔科が来る事を唯一希望として、何ヶ月か我慢していたけれども、その希望が裏切られた、もう生きるあてがない。』としっかり張ってありました。
その経験を出発点として、癌患者さんの痛みで苦しんでいるのをこのままほっとけないというのが一つの出発点でした。

 もう一つ当時、患者さんというのは、ほとんど権利というのが守られておりませんでした。医師が決めた方針通りに、流れ作業でいろいろな苦しい検査や治療を受け、実験的な抗癌剤治療を受けるという流れの中に放り込まれていました。今でいうインフォームド・コンセントなどもありません。そういう中でひとりの若い患者さんの奥さんからの話が、非常に強烈だったのです。40代の肝癌の患者さんだったのですが、痛みの治療で何度も病室にお伺いしていました。ある日その患者さんが亡くなられた後、奥さんが大泣きをして飛び込んできました。3日前に夫が自分宛に『今まで大変世話になった、ありがとう。もうダメだと思うけど、あとはよろしく頼む。』といったようなことを書いた小さな紙を、奥さんにやっとの思いで渡したのです。それを奥さんは「あんた、なんてバカな事を言っているの、しっかりしないとダメじゃない。」とビリビリと破ってゴミ箱に捨てたのです。その後、その患者さんは誰に対しても心を閉ざして、一言も口をきかないで暗い表情をして3日目に亡くなってしまったのです。患者さんに癌であるとか死であるとかを悟らせるような言動は絶対してはいけないと繰り返し注意されていたからです。でも、自分がなんてバカな事をしてしまったのだろうと、奥さんは大泣きをして悔やんでいました。このように患者さんは、自分の体でおこっている事を知りたい。自分がこの先どうなっていくのか知りたい。という当たり前の権利が当時全く無いというのが現状でした。こういった中で、患者さんの権利を何とか擁護していかなくてはいけないと思いました。それが私のもう一つの出発点でした。

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