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第15号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2007年3月10日発行


大阪地域医療ケア研究会 第3回 在宅医療塾 「実践編」
第1講(10月19日) 「より充実した生活を実現するための在宅医療」


「実りある人生のための在宅ケア〜出前医療15年の経験から〜」
医療法人アスムス 院長 太田 秀樹 氏


出前医療15年の経験から


 患者が求める在宅医療はどういうものかということを、15年間在宅医療をやってまいりました実践者としてお話させて頂きます。本来、『在宅管理医療学』という言葉が正しいのではないかと思うのですが、学問として在宅医療という領域が普遍性を持って集大成されなければいけない時期になってきたと思います。在宅医療の概念も拡大しております。この辺についても少し触れたいと思います。
 漫画のような絵でございますが、これは数年前にデンマークに出かけた時に、保健省の副大臣の部屋に掲げてあった絵を頂いてきました。皆さんご存知のようにデンマークというのは「寝たきり老人のいない国」と日本には伝わっておりますが、寝たきり老人がいないということは本当なのだろうかという疑いで、物好きな医者が2〜3人で出かけて行きました。確かに寝たきり老人はいませんでした。何でいないのだろうということから、日本と文化が違うのだという事をしみじみ感じて帰ってきたのです。
 これは男の人生、生まれて10代、20代、恋愛をして結婚をして子どもが出来て40代、50代、あとは下っていくのです。そして100歳になって亡くなる。右下は女で、男の人に比べて各ステージに立っている人間の数が大分違っています。男は非常にシンプルですが、女はにぎにぎしく、生まれて来る時は天使が降りてきます。男は一人ぼっちで死んでいきます。女はちゃんと天使が迎えに来ています。女の人は医者の言うことも本当によく聞くし、健康管理もよくします。

 一般に医療というのは命と関わると言われており、急性期の医療は命に関わりがあり、急性期を乗り越えて何とか命を保てた場合、慢性期になります。例えば急性肝炎が治っても慢性肝炎になり、急性心筋梗塞はありますが、慢性心筋梗塞はありません。急性心筋梗塞は生きるか死ぬかですが、急性期の病気は治るか治らないかで、治らなければ死ぬのです。したがって医学が進んだということで助からない命が助かり、慢性的な障害や疾病と共に生きていくという状況になるのです。生活の中で医療をおこなっていくことが非常に重要になり、生活に寄り添う医療が大切になってきます。さらにメタボリック症候群に象徴されるように、病気の概念が変わりました。ウエスト85センチから病気だと言われたら別に医者に行かなくても、デパートのズボン売り場で診断が出来てしまうのです。命を奪われる状況になる前の予防の観点から、生活の中の医療というのは重要になってきます。
 以前は生活の上位概念に医療というのがありましたが、在宅医療をずっとやってきますと上位概念は、生活がきちんと構築されていないと医療を追及してもあまり意味がないという事がわかってきました。高齢者の採血をして、正常値(基準値)から外れているから病気だといって、数字だけを正常に戻すのが医療だと勘違いをしている先生が結構おられますが、超高齢者の貧血などはあまり治療をしなくても元気なことが多いのです。単に鉄が足りないとかいう問題ではなく、骨髄そのものの機能で貧血になると予想されています。証明されていない理由は、病院に来ない人たちの数値だからです。つまり、基準値というのは、病院に来ている人の統計学的な意味合いから作られたもので、数値を正常化させることが医療ではないのです。

年を重ねるということ

 年を重ねるということはどういうことかといいますと、これは、整形外科領域の疾患が非常に増えます。腰が痛い、膝が痛い、関節が痛い、これは長生きをした結果、不都合が起こってくるのですから、病気なのか、生理的な変化なのか、考えなければいけません。認知症ですが、85歳以上になると3人に1人が認知症ということになります。軽度認知機能障害MCIをふくめ脳血管障害の結果が、介護を要する状況になると国は考えているのです。しかし、寝たきりになっても、楽しい人生をどう支えるのかということに、在宅ケアの本領を発揮する所があるのです。
 在宅療養支援診療所の出てきた背景というのを話してまいりますが、寝たきり老人が本当に日本に多いかというのを調べた結果、施設の中で3人に1人が寝たきりという状況です。寝たきりの定義というのが非常に難しくて、寝たふりとか、寝かせっきりというのもみんな寝たきりになっています。介護保険制度の中で、寝たきり老人の日常生活のランクがA、B、Cと分かれます。Aランクを含めて準寝たきりが200万人いるという状況です。Cランクというのが本来の寝たきりと言われていますが、Cランクの人は寝かせっきりになっていることが多いのです。ですから、実際問題、外国にはベッドバウンド(ベッドの上にいる人を寝たきり)でも、寝たきりではない人はたくさんいます。

 福祉先進国といわれるデンマークは寿命が短く、ここに答えがあるのですが、寿命の長さと人生の質が必ずしも同じではないわけで、生きていればいいというものではないのです。日本の場合、生かされている人が非常に多いのですが、主体的に生きていくことは非常に重要だというわけです。
諸外国と医療体制を比較した場合、日本は人口当たりの病床数が非常に多く、アメリカの4倍もあります。その反面、病床当たりの医療従事者が非常に少なく、アメリカの1/5しかいません。平均在院日数も長く、アメリカの4倍にもなります。ちなみに百床当たりの医者の数は、日本は12.5人ですが、アメリカは71人もいます。看護師の数も43.5人に対して221人と差があります。こういう背景の中で医療改革が進んでいるということです。ベッドの数は1/4しかないけれども、入院期間が1/4だから アメリカより入院期間が長いのは、ベッドの数が多いのだから、ベッドの数を減らしても困らないのだろうという根拠なのです。社会的入院という言葉もありますが、今後は物理的に入院できなくなります。入院できなくなった人たちが地域に出てきます。現状では、在宅難民があふれ出るという予想です。
 医療機関における死亡割合の年次推移ですが、昭和26年には病院で亡くなる人は12〜13%で、自宅では約80%でした。今は病院で亡くなる人が12〜13%で、病院では約80%です。これは異様なことなのです。
高齢者が癌になった場合にどこで看取られているのか。日本は81%が病院で、アメリカは41%、オランダは35%で日本の半分以下です。癌は、治せる間は病気と闘って治してもらいたいのですが、ある時期になると医学が無力になってくる場面が出てくるわけです。しかし、死ぬまで病院で癌と闘い続けて死んでいく人が日本は93%いるわけです。ちなみに日本の癌死因は30万人です。その30%ぐらいの9万人は、在宅で看取れるのではないかと国は試算しています。

 癌の最後を在宅で看取れれば、高齢者の最後は見られるのではないか。そういうロジックですが、実はそうではないと思います。高齢者には高齢者の難しさがあり、特有の在宅の看取りの難しさがあります。いずれにしても寿命で命をとじるというのと、人生の半ばにして癌に倒れるというのは、家族も本人も受け止め方が違うのです。癌は必ず死にます。高齢者は必ず死なないのです。1本点滴をすると元気になったりするのです。
 このようなことから、医療を効率化させなくてはいけません。無駄なお金を使いたくないということから、入院をした患者を少しでも早く帰すということで、地域連携クリニカルパスというのが使われるようになりました。クリニカルパスについては、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、在宅に戻すためのマネジメントのツールだとお考えいただければいいと思います。そして、在宅看取り率という言葉と24時間という言葉が出てきていますが、在宅で看取ったらどうか、24時間管理したらどうかということです。これが在宅医療の概念の拡大につながってきて、老々介護の現場では介護力は期待できず、足りないがゆえに施設に行かなくてはいけないということが多くなります。グループホームやケアハウスなど多様な居住の場で、医療をアウトソーシングし、生活を中心にし、医療を組み入れた看取りまでおこなってはどうかというのが国のイメージなのです。
 地域密着・小規模・多機能ケアで、これは非常にいいシステムですが、政策的に誘導される以前に、現場から自然発生的に出てきていたのです。元祖の小規模多機能ケアは本当に良かったのです。制度になってからどうもひずんでいます。このようなバックグランドの中で、在宅療養支援診療所というのが登場したのです。


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