要介護者に対するケアマネジメント
要介護のケアマネジメントだけについては今回評価しています。なぜ評価しているかと言えば、今回850単位から1,000単位/月(T,U,Vが1,000単位)W,Xが1,300単位/月になりました。
1970年代にアメリカでケアマネジメントができました。その時のキャッチフレーズが『ケアマネジメントをやれば利用者のQOLが上がり、同時にコストが下がります』そういう事を言って、日本に導入してきました。最初は在宅介護支援センターで、そして介護保険に導入したのです。実はアメリカでは「あまりQOLも上がらない、コストも下がらない」という議論が1980年の中頃から起こりましたが、そういう中でもいろんな手法が考えられてきました。その手法の中でそれなりに効果があり、QOLが上がってコストが下がるという手法が三つぐらい出てきました。
1つは、精神病院を退院すると言ってケアプランを作ると再入院をします。なぜかというと長期にわたり、精神病院に入院をしていたため、自分での生活の仕方がわかりません。ご飯をどう作ったらいいのか。あるいは買い物はどうしたらいいのかということです。ケアマネジメントと同時にSST(Social
Skills Training)ソーシャルスキルトレーニングを実施することが必要です。ご飯の作り方や、買い物、そういう事をきちんと学びながら、在宅復帰する手法がリハビリテーションモデルです。
2つ目はパクトモデルと言います。もっと医療と密接な関係の中で行う、医者とケアマネージャーが車の両輪となってすることで効果を上げる手法です。
3つ目は、ストレングスモデルという手法です。
私たちが利用者を見るときに「歩けない」「意欲がない」「お風呂に入らない」「独り暮らし」「トイレに段差がある」など、問題点ばかりを見てきました。しかし、利用者はマイナスだけで生きているわけではありません。もっと人間の持っているストレングスという強さに着目して支援をしていけば、より適切な支援が出来るということです。そのような援助をするとQOLが上がり、同時にコストも下がることがわかってきました。
3年前に大阪で、日本ケアマネジメント学会を開催した時に、ケアマネージャーはいったい何ケース受け持つことが出来るのかとケース数議論がありました。その当時、日本では50ケースという議論と現実には80ケースを受け持っているという話があり、アメリカでは大体50ケースでした。しかし、ストレングモデルのケアマネジメントをする場合、本人の意欲や能力(強さ)を見るためには30ケースから40ケースしかできません。これがアメリカで実証されており、これぐらいのケースでないと効果は上がりません。
今回、50ケースという議論から40ケース未満というようにケース数を下ろしてきたことは、評価できると思っています。介護予防プランも同様ですが、マイナスを捉えるだけではなく、本人の持っている強さを捉えなくてはいけません。「〇〇が出来る」「〇〇がしたい」「〇〇が好きだ」ということで、初めて廃用症候群問題にも関われるのです。そういう中で、本当にケアマネジメントをやる時代がやってきたと評価しています。
地域包括支援センターの役割
現在、地域包括支援センターは介護予防マネジメントで精一杯です。先程は、介護予防マネジメントは大変難しいと話しをしました。
まず介護予防でケアマネージャーと地域包括支援センターの関係をどうするのかという話ですが、地域包括支援センターとケアマネージャーが一緒に要支援者のプランを作ることになっています。その時に地域包括支援センターは国から言われているように、「この人寝返りが出来るから、早くベッドを返すプランに変えなさい」「2回ではなくて1回のヘルパーにしなさい」と指導だけをやっている地域包括支援センターであれば、おそらくケアマネージャーとの関係は監査機関という位置づけになって終わるのではと思います。それを超えるためには、地域包括支援センターはケアマネージャーと一緒に、『この人はこんな能力があるのではないか』『こういう意欲を持っているのではないのか』『こういう好みがあるからこういうふうに支援をしたらどうか』『この人にはもっとこんな社会資源があるのではないか』というようなことを一緒に考え支援できるセンターになれるかどうかが、地域包括支援センターの最後の決め手だと思います。
2つ目に、介護予防議論はさっきの話で、段々と消えうせていくと思います。障害者支援が介護保険に近じか入ってくる可能性も随分高い訳です。障害者支援が入ってきて、介護予防という言葉が通用するはずがありません。だから、地域包括支援センターはどうシフトしていくのかというと、1つは地域にどう根付いていってネットワークを作り、街づくりのプラットホームのようになっていくのかという話です。プラットホームになるためには何をするかというと、いろんな団体に自分たちの仕事を伝えに行く。そして、独り暮らしや高齢者夫婦世帯、介護保険のサービスを必要としながら使っていない家庭をきちっと実態把握をし、来てもらえるような支援をしていく。だから、出かけて行かなくてはいけません。家庭にも行くし、団体にも出かけて行き、自分達で発見をすることが大切です。
4月から起こっていること
まず、ケアマネージャーから要支援者を離さなくてはいけないという問題があります。利用者の半分を信頼関係の出来たケアマネージャーから地域包括支援センターに移すのは、コスト的に問題ではないでしょうか。せっかく人間関係のできた、また非常に難しい利用者のケースなどはもう一度地域包括支援センターとの間で再構築できるのでしょうか。
それと今、利用しているサービスの利用制限が9月末で処理しなければなりません。ベッドの問題やヘルパーの問題を含めて、介護予防という名目の中で財源のコントロールをしているのです。一番心配なのはベッドの問題で、車椅子について必要な人はサービス利用者担当会議で議論をして、必要な場合に使って良いとなっていますが、ベッドについては問答無用で、要支援・要介護1の人は全部無理です。地域包括支援センターとか社会福祉協議会がもう一度、昔の無料のレンタル制度をしてはどうかと思います。
それと地域包括支援センターは大変混乱しています。この混乱がずっと混乱で終わってしまうのか、それとも街づくりのプラットホームになっていくのか。これも始めは介護予防の拠点というイメージだったのですが、予防というものが非常にリスキーだということと、もっとやらないといけないことがわかってきて、街づくりへの転換をしたのです。当初、地域包括支援センターを作るときには、保健師議論ばかりだったと思います。ところが今、社会福祉士の方が大事だという議論になりつつあります。私は介護予防プランというのも、保健師だけがする仕事ではないと思います。保健師や社会福祉士や主任ケアマネージャーが力を合わせて、それぞれ違った能力や知識を発揮し、力を合わせてやっていく仕事だと思います。
医療保険制度の改革
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医療保険制度も大きく変化しています。療養病床を10万床減らして、老人保健施設や有料老人ホーム、ケアハウスなどの介護施設への転換を促し、いずれにしても、重度者を在宅で支えなくてはならないという時代を迎えます。
もう1つ医療保険制度改正の大きな目玉は、在宅療養診療所だと思います。全国で1万箇所と掲げていますが、中学校区に1つという意味です。今8,800箇所手を上げていると聞いていますが、今まで往診実績があった診療所以外は機能することは大変難しいと思います。しかし、大きな改革だと思っています。
在宅療養支援診療所とそれ以外の医療機関の診療報酬はすごく違います。例えば、在宅療養支援診療所だったら、ターミナルケア加算は10万円(1万点)ついています。末期医療の総合診療料というのは、在宅療養支援診療所であれば、500〜1,600点ぐらい付きますが、それ以外だったら算定しません。要するにターミナルケアというのは、在宅療養支援診療所が担っていくということです。在宅療養支援診療所は、コンビニ診療所と言われているように、24時間体制でしなさいと言われています。医療の中に、一種のケアマネージャーとか、あるいは地域包括支援センターに相当する拠点が出来てくるということだと思います。逆に言えば、この在宅療養支援診療所とケアマネージャーなり地域包括支援センターがうまく連携をすれば、重度の人達を支える仕組みが出来上がっていくのではないでしょうか。本当はこうした議論を介護保険の改正時にしておくべきだったと思います。
近未来の介護保険+医療保険を予測する
近未来の介護保険なり医療保険を、どう予測して、どう乗り切っていったらいいかという問題ですが、私は医療との関係は大変大きくなっていくと思います。今からは重度者を在宅で支えなければいけません。国は生活モデルではなくて、医学モデルで利用者を支援する介護保険制度ですから、要介護4や5の重度者の地域生活を支えることが大切です。
今回、介護報酬で一番良かったのは、訪問看護で、重度者に対応する訪問看護の報酬は上がりました。しかしながら、今までの訪問看護は昼の訪問で、夜中の訪問は考えていませんでした。重度者の訪問看護は考えておらず、本当に対応できる訪問看護ステーションが問われてきます。訪問看護の本質にもう一度帰って、きちんと仕事の出来る仕組みをつくらないといけない。これが1点目のポイントです。
2点目は、在宅療養支援診療所が地域の医療の核にどうなっていっていくのかが非常に大きなポイントです。在宅療養支援診療所と介護保険のサービスがどう一体化するのか、ケアマネージャーとどう手を取り合っていくのかということが、非常に重要なポイントになってきます。これはターミナル期をどう支えるかという問題とも関係してきます。同時に重度に対応できるヘルパーになっているか、訪問看護になっているか、あるいはデイケアになっているのか、というような事が、求められてくるのだろうと思います。
先程はふれなかった問題が一点あるのですが、地域包括支援センターについてです。地域包括支援センターは、直営と委託に分けて随分いろんな問題が起こると思います。まずは、直営は仕事が十分出来ないのではないかという事です。委託では、例えばハイリスクポピュレーションのプランを作ってもあまり予防効果はないので、要支援になり、その時点で信頼関係が出来上がっているので、「お宅でやっていたら要介護になってもお宅で」という話になるのではないでしょうか。直営の場合は機能しにくく、委託は利用者の方が要支援から要介護になっても、継続して利用して利用したがることで、中立公正がかえって崩れ、地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の間の関係に微妙な問題を残していると思います。
次に介護保険の改革はどういう形で進んでいくのか、今大きく言われていることは3つあります。
一つは、障害者も介護保険の対象となり、被保険者年齢を下げるという議論です。これは20歳から被保険者年齢(第3号被保険者)を作って半分にする。これは一つの改革ですが、3年後なのか6年後なのかという議論が一つあります。
もっと関心が高いのは自己負担率を上げるという話です。1割の自己負担率を上げていくことに、国会議員の関心は強いですが、厚生労働省は前者の被保険者年齢を下げる方に関心が大きいという二つの大きな議論が横たわっています。おそらく、前者の被保険者年齢を下げるということは、当然障害者も介護保険の対象ということなのですが、今回の障害者自立支援法の中で、障害者は既に一割の自己負担となり、自己負担が増えて大変な状況が起こっています。しかし、障害者自立支援法は逆に介護保険と同じ仕組みを作ったとも言えます。ただ、高齢者の認定と全然違うので、本当にジョイントできるのかが大変難しいです。将来は同じ制度として進んでいく部分は強いと思いますが、障害者が対象となることでケアマネジメントが変わるという思いが強いです。今までは、要介護度の議論ばかりをしていましたが、「障害者に要介護度をよくしろ」という話はおそらくならないと思います。それよりも『雇用』であるとか、『社会参加』をどうするのか、という課題のほうがはるかに大きい問題になってくると思います。
最後に、ケアマネージャーのケース数は半分ぐらいになります。1人あたりの利用者数が減るわけですから、非常に競争が激しくなります。同時に、ケアマネジメントは、自己負担が今はゼロですが、自己負担1割という議論が出てきています。ケアマネジメントが国民になじんできたら自己負担の議論をしましょうという話でしたから、そういう議論が今回の介護報酬の改正でも少し出始めました。今後、これらのことを念頭に置きながら仕事をして行かなければいけません。重度者にきちっと対応できるようサービスの質をどう作り上げていくのかが課題です。ケアマネジメントもしかりだと思うのですが、3年間しっかりと質を上げていく必要があります。
これから介護サービス情報の公表も始まります。ここでは質は問わなということになっていますが、一定の水準を満たしたということで、一つひとつの調査項目について本当にケアの質を上げるものなのかという点検を自らの機関でやっていく時期に今あるという事を申し上げます。
(講演内容は編集の都合上一部省略させて頂きました)
■プロフィール■(敬称略)
社会学博士・大阪市立大学大学院教授
白澤 政和(しらさわ まさかず)
<略歴>
1974年 大阪市立大学大学院修士課程修了(社会福祉学)
1983年 84年米国ミシガン大学老年学研究所在外研究員
1988年 大阪市立大学生活科学部社会福祉学科 助教授
1994年 大阪市立大学生活科学部人間福祉学科 教授
2000年 大阪市立大学大学院生活科学研究科 教授
2004年〜2006年
大阪市立大学大学院生活科学研究科 研究科長
<主な著書>
『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版
『老人保健福祉計画実現へのアプローチ』中央法規出版
『社会福祉援助技術ノート』NHK学園
『介護保険とケアマネジメント』中央法規出版
『ケアマネジメント ハンドブック』医学書院
『生活支援のための施設ケアプラン−いかにケアプランを作成するか』中央法規出版
他著書・論文多数
<学会・社会貢献活動>
日本在宅ケア学会 理事長
日本老年社会科学会 理事
日本介護福祉学会 理事
日本社会福祉実践理論学会 理事
日本ケアマネジメント学会 理事
日本社会福祉士養成校協会 会長
大阪府社会福祉審議会老人福祉部会 委員長
大阪市社会福祉審議会 委員長代理
大阪市住宅審議会 委員
堺市社会福祉審議会 委員長代理
全国訪問看護事業者協会 理事
大阪市地域福祉計画作成委員会 副委員長
<受賞>
吉村仁賞受賞(『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版により)
福武直賞受賞(『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版により)
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