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第14号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2006年10月10日発行


大阪地域医療ケア研究会 2006年度 総会・記念講演
2006年7月30日(日) 午後2時〜4時/大阪府福祉人権推進センター


「改正介護保険をどう乗り切るか!」
〜地域医療と介護保険サービスの現場の経営戦略を考える〜
白澤 政和 氏(大阪市立大学 大学院生活科学研究科 教授)


改正介護保険での基本的な問題点

 今回の医療改革で、ご存知のように現在25万床ある医療型の療養病床が、15万床になります。残りの10万床はどこに行くのかという話がまだはっきりしていません。また、介護療養型医療病床の13万床はどこに行くのか。介護保険の他の名称で収まるとしても、23万床(介護療養型病床の13万床)を含めて、どこでどう引き受けるのかという話になってきます。新たに10万床の医療施設を介護保険が引き受けるとなれば、当然保険料が上がり、今でも暗い話が、もう1つ暗い話が3年先に来るという事です。
 そういう意味では、医療保険料が下がるかも知れないが、介護保険料が3年先には間違いなく上がります。そうした時の保険料の重みから、3年先に要支援者についての議論がおこらざるをえないということです。要支援者を、地域支援事業に移していくのは6年先ではないか、という議論になるわけです。私としては早く在宅の要支援者のあり方について議論をしないと、現在は中途半端に置かれている状況にあると思っています。3年先、6年先の非常に大きな流れを考えてみた時に、私たちはいったいこの介護保険をどう乗り越えていったらいいのか。私自身は今回の介護保険の改正を厳しく捉えております。問題点が大変多く、とりわけこの2点だけは致命傷だと思っております。
  1点目は、国が介護保険制度を国会に出して審議をしていた時期に、介護予防とか筋トレという言葉ばかりだったと思います。お年寄りはいつか二十歳に戻れるかのような話をしており、それが国会の審議の議論でした。それは国会審議では介護予防というレーンでないと法改正が進まなかったのだろうと思います。介護報酬を見てわかるように、予防にはほとんどお金を付けていません。通所介護にしても付けている財源を見たらわかると思いますが、予防というのには付けていないのです。初めから国は、国民やあるいは事業者を騙したのではないかと思っています。

 一番重要だった点は、重度者をどう在宅で支えるかという事だったのです。それに気が付いたのは介護報酬を見て重度者にあつくしていることでした。小規模多機能を作っても軽度の人に来てもらっても経営は成り立たない。あるいはグループホームでも、今まではグループホーム自体が老人ホームの中間施設的な意味合いを持っていたけれども、訪問看護のサービスが利用できるようになり、ターミナルのグループホームへと大きく転換していると気付いたのが介護報酬を見た時です。私はこの事をもっと早くに国民や事業者に伝えるべきだったと思っていました。間違いなく改正後の介護保険のもとでは、老人ホームや老人保健施設は作れません。皆さん方の市町村の介護保険事業計画を見て頂いたらわかりますが、3年間ほとんど作れません。グループホームも作れません。そうすると在宅で重度者をどう支えていくのか準備をすべきだったのです。医療型療養病床が10万床減り、帰ってくるのは地域しかないのです。それを支える議論をもっとしなくてはならなかったのです。これは非常に大きな問題点だと思います。
 2点目は僕自身の研究と関係があるのですが、居宅介護支援事業所のケアマネージャーの所へ行けば全ての問題が解決するワンストップサービス。そして生活を継続的に支えていく、同時にケアマネージャーを中心として保険や医療や福祉のサービスを一体的に提供をしていく。さらにそれがうまく出来れば、コストの削減につながっていき施設に入らなくても済む。不必要なサービスを利用しなくても済む。そういう仕組みを介護保険導入時に作りましたが、今回その仕組みが大きく崩れたというのが率直な思いです。ハイリスクポピュレーション(特定高齢者)、要支援者、要介護者、の3者に分けたのです。利用者は要支援から要介護に変わったからと言っても状態はほとんど変わっていないのですが、サービスの内容が異なり、ケアマネージャーが代わり、アセスメント用紙、ケアプラン用紙が異なるのです。ですから、ワンストップサービスで継続的に支えた仕組みが大きく崩れてしまいました。そういう意味ではもう一度、重度者中心の仕組みをどう作り上げていくのか。そして三種類に分かれた利用者をワンストップサービスで利用できる仕組みを再構築していくことが大きな課題だと思っております。

介護予防はどのような効果を発揮できるのか

 まずは介護予防が財源的に効果があるのだろうか。介護予防と声高らかに国が言うのはいいと思うのですが、結論から言うと、介護予防に国が膨大なお金を出してやる事ではないのです。国民が介護予防を考えましょうということです。
 介護というのは、例えばハイリスクポピュレーションの人に介護予防プランを作れば一生、介護保険を使わなくてすむということではなく、時期を延ばすだけの話です。ある時期だけ若干利用率が下がるかも知れませんが、後は同じになるのです。今回、介護予防で財源が下がるということは正確ではなく実態は、介護予防という名目で要支援者に対するサービス利用の抑制が財源を下がらせるのです。今まで何回も使えていたものが使えなくなったりという利用抑制をすることによって財源が下がることを私たちは認識しておかないといけません。
 私は介護予防で、介護サービスを利用しない期間を伸ばすことは大事だと思っています。では、国民の力以外に、今回の介護予防プランでそのような事ができるのでしょうか。ケアマネージャーが将来的には8ケースになるという、要支援者の介護予防プランや地域包括支援センターが作っているプランは、本当にハイリスクポピュレーションが要支援者にならない予防プランなのか。あるいは、ならないように何ヶ月か延ばせるプランを作っているのか。あるいは要支援者に作っているプランが要介護にならないプランを作っているか。私は正直あのような用紙や報酬では作れないと思います。本人の持っている潜在的な能力を引き出してきたり、意欲を引き出すことが介護予防だということは、論理的には正しいと思います。でもそれは軽い人だけにあてはまることではありません。重度の人も本人の能力を引き出し、意欲を引き出すことは大事です。利用者がきちんと利用できる仕組み作りをもう一回根本から考え直す必要があるのではないでしょうか。
 今回の介護予防では、本当の意味での予防は出来ず、要支援者のサービス利用抑制だけで財源が下がるということが最終的な結果になるのではないかと思います。そういう意味では、もっと介護予防をやるのであったら、どうするのかを考えるべきであったと思っております。 

ハイリスクポピュレーションに対するケアマネジメント

 日本は世界の動向とは反対です。イギリスではケアマネジメントを軽度の人には効果が薄く、また、コストがかかるのでしない方向で進んでいます。
 例えば、ベッドだけレンタルしている、ヘルパーだけ行っている要支援者がいますが、この人達に本当にケアマネジメントが必要でしょうか。そのような人にイギリスでは何をしているのかというと、来所すれば「あなただったら、どこの機関でこういう物が借りられますよ」と情報を提供する、information and referral serviceだけの非常に軽装備のサービス提供をして、相談事業を行っていこうとしています。
 ところが日本では反対に、要支援者だけではなくてハイリスクポピュレーションの介護保険外の人にまでケアプランを作ろうとしています。これは大変問題だと思っており、ケアマネジメントというものをあまりにも過大評価しているというか、信頼しすぎています。ハイリスクポピュレーションのお年よりはある程度元気な人です。その元気な人に、厚生労働省の課長会議のプラン用紙では、「〇月〇日は歯医者に行きましょう」「〇月〇日は傾聴ボランティアに来てもらいましょう」と書いてありましたが、そんな元気な人には自分で決めてもらうことだと思います。こんな事にお金をかけていていいのかと思っています。

 現在、地域包括支援センターがハイリスクをやり始めていますが、現実にはプランはいらないと皆さん言われています。それは当たり前で、半分以上がそういう状態です。ケアマネジメントの本質を申し上げますと、『自分の人生は、自分で決める』ということが基本にあります。しかし、自分の人生を自分で決める上で支障のある人がいます。例えば、認知症で自分の意思をきちんと表明できない人、あるいは、どのサービスを使っていいのか問題がたくさんあって、どのように処理していいのか困っているような人、こうした自分の人生を自分で決められない人のために、プランを利用者と一緒に作りましょうというのが、ケアマネジメントの本質です。だから、ハイリスクポピュレーションの人すべてにケアプランを作ってどうするのかというのが私の思いです。

 本当は次のような方法がいいと思います。information and referral serviceにイギリスは移行していると言いました。実はこのハイリスクポピュレーションに25項目を含めて介護予防を決めたのには実績があります。東京都が「お達者検診」というのをやっており、これがベースにあるのです。お達者検診には、25項目の「転倒したことはありませんか」「栄養は・・・」とか、簡単に言えば、栄養の箇所にチェックがあれば栄養改善教室に行きましょうと言っているのです。こういうのをinformation and referral serviceといいます。実際はハイリスクではケアプランを作っても、3つしかサービスがないのです。しかし、その過程で虐待の可能性とかがあれば、地域包括支援センターに繋げばいい。そういうアセスメントシートにすることが大事です。

 ハイリスクと要支援は6年先には地域支援でまとめるのだと予測します。厚生労働省は、ハイリスクポピュレーションと要支援者の生活は連続しており、同じ用紙を使わないといけないのですと書いています。特に連続していなければならないのは、要支援と要介護ではないでしょうか。そこを無視して、要支援とハイリスクを繋いだのです。要するに、要支援とハイリスクが地域支援事業に入れば、要介護者だけケアプランを作る、ケアマネジメントになるのでしょう。
地域支援事業に要支援者が入ってくれば、昔のように市町村がもっとヘルパーとかデイを地域支援でできるようにするのが大事ではないでしょうか。私は、好きなだけ使えと言っているのではなく、要支援者の中にもヘルパーが必要な人はおります。その要件は要介護度ではなく、家族がいるとかいないとかで決まってくるのです。3年なり6年先に地域支援事業を充実させるのか、させないのか。私はさせなかったら、軽度の人達から多くの利用者ニーズに合わないという問題が起こります。3年先の地域支援事業の位置づけは重要な意味を持ってきます。


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