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第13号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2006年6月20日発行


第4回研究大会 第2分科会 
『高齢者虐待の予防と解決のために』

基調提案 「高齢者虐待防止法と地域支援の
提案と対応〜当事者の声を聞く〜」

(財)富田林市福祉公社  福田 弘子 氏
(現在の所属先 :東京都渋谷区高齢者ケアセンター地域包括支援センター)


高齢者虐待の実態

 今は、現職で基幹型在宅介護支援センターで高齢者の総合相談員をやっております。それと介護保険の居宅介護支援所のケアマネージャーとして働いております。そしてもうひとつ大阪府のアクションプログラムの中のコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)もしております。
 虐待に遭遇する専門職というのは多いような気がします。だけど犯罪の一歩手前であるとか、事故の一歩手前の在宅の方に巡り合うというのは、もしかしたら少ないかもしれません。だけどそういう可能性のある人というのはたくさん在宅にいるということを知っていただきたい。
 平成15年11月に初めて日本で在宅の高齢者に対する全国調査がありました。

<高齢者虐待の全国調査>

○調査目的:家庭内での虐待

○調査対象:
(1)在宅介護サービス事業所(16,802ヶ所)
(2)自治体調査/各市町村(3,204ヶ所)

○調査方法:H14年11月1日〜H15年10月末までの期間についてのアンケート調査

<高齢者虐待の実態>

○虐待を受けている高齢者の状況
(1)年齢:平均年齢81.6歳
(2)性別:男性 23.6% 女性 76.2%
(3)要介護度:要介護3以上 51.4%   軽度 45.4%
(4)認知症高齢者:全体の8割弱
(5)世帯の経済状況:生活に困らない程度   余裕がある  66%

○主な虐待者の状況
(1)続柄:息子 32.1% 嫁 20.6%
      配偶者 20.3% 娘 16.3%
(2)年齢:40歳〜64歳 64.4%
(3)性別:男性 49.9% 女性 49.8%
(4)同居・別居状況:同居 88.6%
(5)接触時間:常時接触 51.5%
  接触時間が長いほど虐待の発生が起こりやすい
(6)介護の状況:介護を行なっている 60.6% 

 実際に高齢者虐待の歴史というのは、世界中で虐待があるわけで、日本だけではないということです。アメリカでは、35年前からこのような研究がされてきており、日本では研究機関がありませんが、これから調査・研究が始まり、専門家の育成を一緒にして頂けたらとひそかな希望を持っています。

高齢者虐待予防法の具体的な提案内容の概要

 高齢者虐待予防法の具体的な提案内容、支援の提案内容はここに掲げている大体13の項目です。
養護者による高齢者虐待に関わる通報とか、通報を受けた場合の措置が出来るとか、今までもなかった訳ではありません。老人福祉法の中にもあったし、DV法の中にもありましたが、活用できなかった理由があるはずなのです。新たに出来たのが立ち入り調査です。虐待されている人の生命の危機だとか、生活の危機を見れない、会えない、会わせてもらえない場合、家庭の中へ立ち入り調査ができるようになりました。警察が支援するということも明確になりました。面会の制限、専門的に従事する職員の確保、これはどうするのか私も見ていきたいと思います。あと都道府県の援助も必要で、虐待予防法では市町村の責任が大きいです。ただ、面会制限とか立ち入り調査とかは高齢者の人権保護の中であまり明確ではなく、これが過剰に横行してしまうと人権侵害になってしまう問題があります。家族の絆の中に、私達が飛び込んでいく人達が、どのようにコミュニケーションを取り、家族の中でどうしていくのかを考えなければいけません。

<高齢者虐待予防法の具体的な提案内容>

1.相談、指導及び助言
2.養護者による高齢者虐待に係る通報等
3.通報を受けた場合の措置
4.居室の確保
5.立入調査
6.警察署長に対する援助要請
7.面会の制限
8.養護者の支援
9.専門性に従事する職員の確保
10.連携協力体制
11.事務の委託
12.周知
13.都道府県の援助

事例

 アルコール依存症と障害のある息子から虐待を受けているケースです。このケースの関係機関というのが、警察・保健所・福祉課・社会援護課・介護保険課・情報公開課・ふれあい交流課・介護保険事業所・介護老人保健施設です。

◎ケースの課題
(1)息子の生活に関して社会支援が現状では行われていない。虐待を受けているお母さんが一生懸命子育てをしている。
(2)母親のADLの低下における息子の支援に関して本人に自信がない。
(3)息子のアルコール依存における昼夜逆転とス
ナックへの浪費がある(月100万前後)。
(4)行政各課に息子/本人の相談歴があるが支援には結びついていない。
(5)介護保険制度に沿っているが居宅の対価は発生していない状況である。(要介護1)
(6)明らかに精神的・身体的虐待があり、アルコールにて虐待悪化が予想される状況。
(7)息子の暴力行為と暴言により医療・介護施設利用拒否状況で本人の短期入所は拒否状況。

◎地域課題:近隣に息子の暴力に関することで、非難家族から借金を頼まれ断れない状況。

◎行政課題:母親のADLがおちており、歩行困難になってきている。息子の犯罪の可能性が高いく、暴力の悪化も高い。お金は底を尽きるという状況。
 ICFの概念で現状の全体像を見ると、心身機能・構造に関しては歩行が不安定、話がまとまらないという状況です。この状況はどこに相談をしても支援する者がそのことを、うつ状態であるとか、不安そうだということをくみ取らないと相談ベースに上がってきません。あとは生活に気力がなく、疲労感が見られます。活動に関しては、息子が家にいると全く家から出られない状況です。別に縛られているわけではありません。参加という所では、この方は週に数回、3日から4日間警察に泊まっていました。暴力から逃げるために、皆さんの机と同じような硬い椅子に24時間座らされるのです。虐待だけではなく、逃げ込んでもそこにゆっくり入れない環境というのは、逃げ込んだ先が施設であっても、不適切なケアそのものも虐待なのです。環境因子としては、近所の人も息子が粗暴だということをみんなが知っている状況でした。個人因子としては、息子に飛ばされて腰椎の圧迫骨折をして入院歴があったということ。息子が一人で生活することに母親として不安を抱いていました。それは、地域に対して息子が暴力をふるわないかということが不安で、逃げ出したかったが逃げられなかった現実があった。そんなことがありながら、一生懸命本人は息子を支援し、次にもう一度本人の人生を再構築という話になっていきます。

虐待事例の支援方法

 高齢者虐待は、私は見えない犯罪だと思います。見つからなければ事故で終わっている、在宅高齢者の虐待はたくさんあります。認知症では、特に不適切なケアという側面からの虐待があります。皆さんもいろんなところで多問題を抱えているケースに遭遇していますが、支援の方法がないわけではないので、一緒に考えてやっていきましょう。
 実際の支援方法としては、家族・グループの支援、地域・グループの支援、民間・グループの支援があります。

<虐待事例の支援方法>

(1)家族・グループの支援
本人・介護者・配偶者・子・孫等
(2)地域・グループの支援
親族・近隣者・友人・家族・町内会・老人クラブ・ボランティアグループ・民生員等
(3)民間・グループの支援
医療・福祉事業所
(4)行政グループ支援
市町村・保健所・警察等
*現状では、上記の支援それぞれの連携と支援の方法が構築されつつある。そのなかでも犯罪に結びつく事例や命の危機がある事例は存在する。

 あと、期待するのは予防法の効果ということで、明確な責任が明示され、関連的な法令を活用しながら、虐待被害者の代弁機能を関係連携により、支援グループ全体として受け止め、支援することができます。支援グループ全てが同じ温度差で支援をしていかないと効果はありません。ひとりの支援者だけでは絶対に救えないのです。
(講演内容は編集の都合上一部省略させて頂きました)


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