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第11号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2005年7月20日発行


基調講演1 「医療と介護の新時代」
〜介護予防・リハビリテーションについて〜
医療法人輝生会 初台リハビリテーション病院 理事長 石川 誠 氏

 

今までの医療提供体制

 現在のわが国の医療体制は、大変ベッドが豊富にありますが、病院はいつも人手が足りないということが慢性的に続いています。その結果、欧米先進国に比べると大変入院日数が長いといわれています。
 また、どうも病院には一つの病棟に急性期と慢性期の混在する傾向にあり、どうしても急性期の方に目が奪われ手をとられます。そのため慢性期は放ったらかしになり、かくして寝たきりができてしまうということにつながるわけです。つまり機能分化していないために効率的、効果的ケア体制ができていないと思います。
 また、ベッドがたくさんあるために、何か困るとすぐ入院ということは医療従事者も地域住民も同じ様に考えています。入院医療に依存的であると、これは偏に在宅ケア体制が極めて不完全であるという歴史的な産物であり、これをなんとかするべきだという方向に変わってきています。  
したがってこれからの医療提供体制は急性期のベッド数は減っていきますし、入院期間は短縮の一途をたどっていくことは間違いないと思います。その代わり、そうした病床の医療専門職数はどんどん増えていくことになるだろうと思います。
 また、急性期がそうなりますと、そのあとを受ける急性期や慢性期のこうした機能分化を遂げた病院群が当然整理されてくと思いますし、一番重要なのは、この在宅ケアサービスが今後とも量的にも質的にも拡大の一途をたどっていくことを抜きには、こうした機能分化は遂げられないと思われます。

機能分化する医療提供体制

 今の医療制度を急性期、慢性期と機能分化した形で整理しますと、こんなような図が描けると思います。
 この急性期病院には、ICU・CCU・HCUなどの急性期病院のなかでも病棟が分化していますし、急性期病床も登場しています。その後を受ける回復期リハ病棟ですが、もうひとつ緩和ケア病棟と特殊期間療養病棟という極めて機能が特殊な、つまり明確な機能を持っている病床群が出来ていますし、おそらくその他の病床というのが全てこの右下の施設の方に区分されていく、宿命になっているのだろうと思いますが重要なのはここです。

高齢者介護研究会

  一昨年の6月に高齢者介護研究会、これは中村老健局長の諮問機関として持たれたもので、座長はロッキード問題の東京地検の堀田力さんが務められました。この報告書を拝見しますと『高齢者の尊厳を守るケアの実現』、これを遂げることであると言いきっておりまして、そう言いきったということは、今のわが国では高齢者の尊厳は決して保たれていないということを、暗に言っているわけです。その為には『介護予防とリハビリの充実は重要な柱』だという報告書が提示され、この報告書が介護予防の制度ができる原点になっているわけです。

高齢者リハビリテーション研究会

  高齢者介護研究会の後を受け、高齢者リハビリテーション研究会、これも厚生労働省老健局長中村さんの諮問機関であり、座長は上田敏先生が務められ、5項目の要約がまとめられました。
昨年の1月に提示されたものですが、これを拝見しますと『急性期のリハビリが不十分』である『長期間にわたる効果のないリハビリ』が行われている。『医療から介護への不連続なシステム』が機能している。『リハビリとケアの境界が不明確』であり、『在宅のリハビリが不十分』の5項目です。
 急性期のリハビリが不十分ということは、発症してすぐ入院して3日以内に開始されるリハビリテーションが普遍化していないということです。リハビリという発想がない急性期病院はまだたくさんあり、急性期のリハビリは普及しておりません。
 長期間に渡る効果のないリハビリというのは、長期慢性期において目的が不明確であり、週一回、二回と継続的に延々とリハビリ、つまりPT・OT等が続けているという状況をさしています。
 医療から介護への不連続なシステム、つまり医療保険と介護保険の整合性が保たれず、色々な問題が入っているというのを意味します。
 リハビリとケアの境界に関しては、(ここで指しているリハビリというのは医学的管理化におけるリハビリ医師と相談しながらPT・OT・STが行う医学的リハビリ)医学的リハビリとケアというものが明解に区分されていないリハビリテーション。医学的でないリハビリテーションもたくさんありますので、医学的リハビリテーションとそうでないリハビリテーションとなんとなく曖昧模糊としているということを指しています。
 在宅のリハビリが不十分ということは、ひとつは訪問リハビリテーションの資源が極めて乏しいということ、通所リハビリテーションが通所介護と似かよっており、メリハリができていないということを指しているのだと思います。

高齢者リハ医療サービスの目標

 高齢者リハ医療サービスの当面の目標ですが、短い入院期間で寝たきりを予防しADLを向上させ、家庭復帰を推進する。そのためには、リハビリテーション医療が頑張らなければいけません。そして在宅施設においても寝たきりを予防し、自立生活及び介護負担の軽減を支援する。これがいわゆる高齢者リハ医療サービスの2大目標になっています。

高齢者リハビリの3モデル

 さて、高齢者リハビリ研究会では高齢者のリハビリを3つのモデルに区分いたしました。
『脳卒中モデル』と『廃用症候群モデル』、『認知症モデル』です。
 脳卒中モデルというのは,何も脳血管疾患に限ったわけではありません。いわゆる急性発症する病気全てが含まれます。突然病気が起こる、怪我をする。そうしたものが脳卒中モデルとなっています。
 次の廃用症候群モデルは、いわゆる変形性の関節症骨粗そう症等々で、ジワリジワリと機能が低下していくという意味があります。それから認知症モデルですが、この脳卒中、廃用症候群、認知症モデルの中で明確化しているものは脳卒中モデルだけです。認知症モデルに至ってはまだモデルといえるような具体的、この形が一番いいというものがまだ出来ていないという状況にありますし、廃用症候群もそういう傾向が強いわけです。

整理されてきた脳卒中モデル

 整理されてきた脳卒中モデルですが、その脳卒中モデルが急性期、回復期、維持期のリハビリテーションと3つのステージが流れるように進んでいくことが好ましいと言われています。
 急性期のリハというのは、急性期病院に入院して行うということです。ここでいう廃用症候群は、いわゆる病気になってベッドで安静臥床が続いていくためにおこる廃用症候群です。そうしたものが急性期のリハです。
 その後を受けた回復期のリハは、2000年の4月に出来ました。回復期のリハビリテーション病棟でおこなうリハビリということになります。
 その後の維持期のリハはまさにたくさんのサービス提供拠点がございまして、診療所あるいは病院、訪問看護ステーション通所リハビリテーションや短期入所の施設、また、介護保険施設等です。急性期リハが不十分であるということは、おそらく回復期リハも含みまだまだ不十分だという意味だと思います。

急性期リハビリテーション
(急性期を担う病棟におけるリハ)


 急性期のリハビリテーションというのは、急性期を担う病棟におけるリハということになりますが、この急性期を担う病棟というのが実は制度化されておりませんでした。急性期入院加算、急性期特定入院加算を取っているとか、地域医療支援病院、DPCモデル事業の病院とか、そういうことになると思いますが、そういった病院であってもリハ基準を持っていない病院があります。
ほとんど PT・OT・STがされていないという実態がまだまだ日本にあり、急性期リハビリテーションの普及にまだかなりの年月がかかると思います。
 これからの急性期病院というものは、迅速な診断と治療をするのはあたりまえであり、合併疾患の予防というものが極めて大きな位置付けを占めます。つまり、寝たきりになってベッド上の安静を強いるための廃用症候群の予防、そして肺炎や尿路感染症等の感染症の予防、そして低栄養の問題があります。点滴・IVHなどで1週間2週間経過するうちに低栄養になってしまい、その間に口は関節硬縮、舌の萎縮、筋肉の萎縮がおこり、口からはとても食べられなくなる状況を急性期医療病院でつくりあげてしまうわけです。こうした問題を徹底的にやっていくためには、急性期病院が早期離床と早期のリハビリテーションを実践する以外に方法はありません。しかしまだまだ安静至上主義が急性期病院でははびこっております。そうした努力した上で平均在日数が短くなっていくということがひとつの形なのですが、実は平均在日数を短くするということに専念してやるべきことをやらないという急性期病院の実態がまだまだあります。
 つまり、急性期病院におけるリハの課題としては、ともかく早期離床の普及です。早期臨床というのは実は私が医学部の学生の時からあった言葉で、この30年間、医界は何をやっていたのだと言われても仕方がありません。急性期を担う病院にリハ施設基準を整備してPT・OT・STマンパワーを強化し可能ならばリハ課を設置してリハビリの医師を常勤化するというのが課題です。

回復期リハビリテーション
(回復期リハ病棟におけるリハ)


 回復期リハビリテーションですが、回復期リハ病棟というのは入院患者が脳卒中や脊損、頭部外傷、また下肢の骨折や肺炎、手術後の廃用症候群等、入院患者の状態が特定されています。
こういう状態でなくては、この病院に入れないというのが明確であり、目的は寝たきり防止にADLの向上、そして入院期間も180日以内と決まっています。こうして入ってくる患者さんが決まっていて、目的が決まり期間も決まっているという病棟は他にありません。
 最大の特徴はそこに病棟専従の医師がおり、時間の大半を病棟で過ごしていることになります。まずその医師が必ずいるということと、そして看護、介護さらにPT2名、OT1名以上がその病棟に配属されていることが最大の特徴です。今までのリハビリは、PT室OT室ST室にスタッフがおり、病棟とは別個の組織を作っており、病棟の看護、介護もしくは医師と強力なチームができませんでした。たまに行うカンファレンスで会う位という状況が長らく続いておりました。
しかしこの病棟では医師、看護、PT・OTが専従で配置されていますので、朝な夕な昼なにしょっちゅう顔を合わせるそういう状況がつくられます。その結果強力的なチームアプローチが出来、病棟におけるADLが向上し、家庭復帰が容易になっていくというシナリオで進んでいくのが回復期リハ病棟の特徴です。
 回復期リハ病棟の使命としては、ともかく急性期病院から迅速に受け入れること、そして当然発症から間もないケースですので、急性期の十分な医学的管理が必要です。また、必要かつ十分な集中的リハ医療サービスが提供しなくてはいけませんし、その結果ADLを改善し、可能な限り家庭復帰を支援し、在宅ケアでソフトランディングできる調整が重要になります。当然入院中に在宅ケアプランが完成しているということになります。

回復期リハ病棟の課題

 回復期リハ病棟の課題としては、人口10万人に対して50床、全国に6万床が整備されること、各都道府県格差を解消することを目標としています。
 質的整備としては、多くのスタッフ達のチームアプローチの成熟化、看護職リハ専門職のマンパワーの強化、そして教育研修体制の充実です。従来のスタッフはPTはPT室、OTはOT室、STはST室でマネジメントされておりましたが、この病棟はいろんな違った職種が一緒に働く病棟であり、病院ほど縦割りにかぎりなく近い組織はございません。それをなんとか違う職種でも一緒にチームを作ってやろうという新しい形態が重要だということです。

維持期リハビリテーション
(介護保険施設におけるリハ)


 介護保険サービスを利用される方が大変増えています。特に在宅に至っては97万人から247万人に増えており、わずか4年間でこれだけ増えたということは大変な数です。その増えた維持期のリハビリテーションですが、まず介護保険施設のリハビリテーションは、特養と老健と療養型と3つあり、要介護度別にみますと常に同じような値が出ています。要介護4・5が大変多いのが療養型、そして老健は4・5が少なくて1・2・3が多く、老健が軽度、療養型が重度その中間が特養という値です。その中で厚生労働省は介護療養型医療施設と介護老人保健施設と介護老人福祉施設、3つの施設を特徴あるものにすべきだと主張しています。
 どういう風に区分していくのかというと介護療養型は、医学的管理下で重度の要介護者、医療依存度の高い人をみてほしい。老健施設では施設内リハビリテーションの強化をしてほしい。そして、老人福祉施設は施設というより家だから、ユニットケアにして行ってもらいたい。果たしてこれが上手くいくのかです。
老健施設が維持期リハビリテーション施設の中核だと言うのは、なんとなく話はわかるのですが、老健施設での入居者動向を見ると、54%が自宅から入ってきて、54%が自宅に帰っているのが実態です。そして、36%が病院から入ってきて、また31%病院に行ってしまうのも老健です。退居者の15%が特養に入っているということで老健が特養待機に使われていることです。老健の特徴がいったい何かということが、どうも入居者動向からは全く見えてこないわけです。
 しかし、老健施設のPT・OT・STの配置を見ると随分様相が変わります。平成12年3月、今から5年前ですが、PT:0.74、OT:0.56合わせて1.30。当時はPTもしくはOT 1名以上いればいいのが老健でしたが、その当時でも1.3名平均で置いています。毎年それが増えており、昨年の9月2.4、STを入れると2.58まで老健はリハスタッフを増やしています。したがって確実に、老健施設にはPT、OTのどちらか1名というのは完全に時代遅れで、3名以上老健施設にPT・OT・STがいるという傾向が出てきています。これが今後とも続いてマンパワーの強化を図ってもらえれば、まぎれもなく老健施設は維持期リハビリテーションの中核施設としてなることが推定できます。
 また老健施設におけるリハ職員の勤務を見ると月曜から日曜日、つまり1週間休みなくPT・OT・STの誰かが常駐しているという老健は1割以上あり、こうなると医療型の療養病床は全く見る影もないという状態で、老健の方がリハ的には高機能だということがいえるのではないかと思います。

維持期のリハビリテーション
(在宅におけるリハ)


 在宅のリハサービスの提供拠点は、病院、診療所、訪問看護ステーション、老健等々非常に多様化しています。
 この中で外来のリハビリテーションだけは介護保険でなく医療保険ですが、この外来リハビリテーションが昨年、大変規模を縮小されるところがあり、患者さんから大変なクレームが続出しています。というのはPT・OTの方がどうしても入院の方に専念してしまい、老健にシフトすることで外来が空洞化しています。しかし、外来のリハビリテーションというのは、非常に重要度の高いサービスであり、ケアマネージャーと利用者で相談して行う範疇に入っていません。この外来リハビリテーションの巧みな利用というのは在宅医療にとっては非常に重要なものです。ですからこれが規模縮小になるというのは大変残念なことであり、ここの再構築が必要ではないかと思っています。
 訪問リハビリテーション、PT・OTのステーションから行く訪問です。これに関してはPT・OT・からかなりのクレームがでています。なんでPT・OTが行って訪問リハという名前ではなくて訪問看護という名前に分類されるのだと、PT・OT協会へ苦情が出ています。
 外来訪問、そして通所リハ、短期入所によるリハ、こうした維持期のリハサービスがありますが、どうもこの訪問リハと短期入所によるリハというのはあまり利用されていないようです。
 短期入所は施設側によって軽んじられているというのは言い過ぎかもしれませんが、どうも短期入所でしっかりと評価して少しでも何とかしようじゃないかというリハサービスはあまり行われていないのが実態です。

 さて、居宅サービスの種類別利用者数、昨年の8月ですが、247万人の内訳を要介護度別に見ますと、訪問リハが他のものと比べてあまりにも少ないということです。その代わりホームヘルプサービスとデイサービスと福祉用具は常に御三家でありまして、要支援と要介護1の方の利用がいずれもホームヘルプサービスとデイサービスでは50%を上回っているという勢いになっています。昨年の9月で在宅居宅サービスの保険給付額2187億円が使われていますが、このうち訪問介護に23%、通所介護に23%、通所リハに11%、ケアマネージメントに9%という使われ方をしています。訪問リハビリテーションは四捨五入すると0%になってしまいますが、その内訳は0.17%3億7千万円です。2200億近い中、ようやく4億にちょっと欠ける位という事で、訪問リハビリテーションをもっと普及しないといけません。
私は介護予防という話が出てきた理由は、実はここにもあるだろうと思っています。あまりにもリハサービスが乏しいし、この通所リハビリテーションも本当の意味でリハビリテーション的なサービスをしているのかといわれると、どうもこの通所介護と似かよった内容だという辺が介護予防と言わざるをえなかった点だろうと思います。

 訪問ですが、訪問リハビリ、訪問看護、訪問入浴、訪問介護と4分類しますと、何と言ってもホームヘルプサービスが圧倒的多数のシェアを占めています。特に要介護1では9割方ホームヘルプサービスです。従いましてこのホームヘルプサービスの方々が自立支援の技術を持ってしっかりとしたサービスをしてくれれば、介護予防という言葉もでてこなかったのではないかと思われますが、そこにもひとつの大きな理由があるのかもしれません。いずれにしましても訪問リハビリは雀の涙の訪問リハビリと言われる位やっとグラフで線が描ける程度です。しかしそんなに訪問リハビリは駄目なわけではありません。
 看護師さんとPT・OTの訪問回数を比較しますと、このPT・OTの訪問回数は実は訪問看護ステーションから行く訪問介護という名前のPT・OTも含まれています。ですから訪問の合算ですが、そうしますとなんと看護とリハスタッフは4.6:1まで縮んでまいりました。実は10年前50:1だったのです。介護保険が始まった当初やっと30:1になりました。しかしこの5年間PT・OTの努力によりまして4.6:1まで訪問リハはいくようになったのですが、なにせ利用者数増の方が高いものですから追いつかないというのが訪問リハの実態です。

 拠点別にみますと訪問看護ステーションから約7割訪問しておりまして、病院、診療所からは3割位です。老健施設も行っていいという制度ができましたが、制度上の限界がありまして、ほんのわずかです。従って居宅サービスでは訪問リハを一番の重要整備ポイントとあげまして、今、基盤整備をするべくいろんな働きかけをしているところです。また訪問リハビリあるいはPT・OTになりたてのスタッフが行っても何もできませんで、やっぱりある程度キャリアのあるPT・OTが出かけなくてはなりません。その為、研修授業の全国展開を計っているわけです。また、訪問STは医療保険で制度化されましたが、おそらく来年介護保険では制度化されると思います。もうひとつ訪問リハビリテーションというものを作ってもらいたいと5年も10年前から働きかけをしていますが、どうもまだできそうな雰囲気ではございません。また、訪問リハビリテーションとPT・OT・STは違う、専門性を持っていますので訪問リハではなくて、訪問PT、訪問OT、訪問STへ区分すべきだという働きかけも行っています。現在、居宅介護サービス利用者の1%程度しか利用しておりません。10%は利用できるような形にしないと自立支援はうまくいかないのではないかと思っています。

 訪問リハも含めて全体の在宅維持期リハの課題ですが、訪問看護及び訪問介護の方々がリハビリテーションの技術をもっと吸収して身につけていただきたい。それから通所リハビリテーションがもっとPT・OT・ST専従者が増え、しっかりとした個別対応、ひとつのプログラムを明確に組んでそれに対して邁進する個別対応の推進をしていただきたい。そして福祉用具・住宅改修等々にもPT・OTの助言体制が整備され、短期入所におけるリハビリが活性化され、そして外来や通所や訪問のリハビリテーションが臨機応変に使われるということ。重要なのは維持期のこうしたリハサービスの適応の種類と頻度と期間これを明確化していくことが求められています。そうしないと長期にわたり漫然と実施するリハビリテーションと言われ続けてしまいます。

 リハビリテーションにおける介護保険後見えてきた課題ですが、死亡する原因疾患と生活機能を低下する疾患とは違うということです。生活機能を低下するものには脳卒中、衰弱、転倒骨折、認知症、慣性疾患等があり、脳卒中を除けば決して死因になるような病気ではないということです。そして軽度の要介護者が極めて増えており、特に女性の75歳以上の後期高齢者というのは脳卒中というよりも筋骨格系の疾患つまり骨の変性疾患が主体です。それから介護予防の効果が上がっていない要支援、軽度の要介護者へのサービスがうまく機能しておらず、このサービスがむしろ要介護度を高めているのではないかという疑いがかかっています。そして3つのモデル、脳卒中モデル、廃用症候群モデル、認知症高齢者モデルに対する適切なアプローチが必要ということになります。

 いずれにしても、この急性期、回復期、維持期(在宅・施設)の流れが二次医療圏において質、量ともに整備されて、効率的に流れるシステム構築が重要です。その為に地域リハビリテーション、広域支援センターというのが二次医療圏に一箇所ずつ指定されること。そのセンターを委託された施設がデータを収集し、そのセンターに行けば何でもわかるという相談員がいて、いつでも対応できること。また地域住民の啓発活動や他の医療機関へ支援をするというのが地域リハビリテーション広域支援センターの役割です。それにはどうしてもPT・OT・STのマンパワーが重要になります。PT・OT・STの国家資格保持者数を見ますと、平成6年ですがPT・OT・STを足して22,000人でした。10年経って今75,000人になりました。内訳はPTが42,000人、OTが26,000人、STが8,800人です。あと5年経ちますと130,000人以上になるということで、たくさん増えてくるPT・OT・STをいかに吸収し、いかに教育していかに役にたつチームの一員としてするかということが大きな課題になります。

介護予防に関する取り組み

 今までの介護予防に関する取り組みというものは、介護保険法に基づく予防給付と介護予防地域支え合い事業と老人保健事業の三つです。
 介護予防というのは、介護の必要な人に適切なケアをすれば介護予防につながりますが、介護の必要な人の要介護状態が高まらないように防止すること。もうひとつは介護が必要にならないようにすること。こうしたことが介護予防だと思います。医学関係の勉強をされた方は、公衆衛生学で一次予防、二次予防、三次予防ということは皆さん勉強してきているはずです。いわゆる病気の慢性疾患に関しての一次予防、二次予防、三次予防は健康増進、早期発見、治療と合併症の予防と相場が決まっています。健康増進がヘルス事業として一次予防、二次予防が老人保健事業等々で行われ、介護予防の一次予防、二次予防、三次予防という概念も当然出てきます。
 介護予防の一次予防というのは生活機能の維持向上つまり、益々元気になろうということです。二次予防とは、要介護状態になりそうだというのを早めに見つけること、悪化するのを早めに見つけるということで、ここがかなり重要なポイントになります。ケアマネージャーが常に対象者を訪問してチェックすれば、早めに見つけられるはずです。少なくとも、この4、5年間ケアマネージャーにはそういう視点が欠落していた。もしくはそういう訪問をしてチェックをすることを、怠ったと言われても仕方がないわけです。そして要介護状態の改善、重度化予防これが三次予防。こうした一次予防、二次予防、三次予防をしっかりと具体的な行動として提示することが介護予防であると思います。私はこの三つともどう見てもリハビリテーションと重なってしまうのです。

 ある中国地方(日本海側)の町の2000年10月と2002年10月の比較データですが、要支援、要介護1・2・3・4でだいたい4〜50%のところでみんな2年間たつと悪くなっているというデータが出ています。また、2000年4月と2004年4月つまり4年たったものを比較すると、要支援は2倍以上、要介護1も2.5倍ちかく増えています。要支援と要介護1はホームヘルプサービスとデイサービスと福祉用具が極めて多く使われており、その要支援、要介護1がたいへん増えているということ。それに対するサービスが状態の改善につながっていないという結論が導き出されてしまったわけです。その結果、介護予防というテーマが浮上したということです。そして新予防給付と地域支援事業をつくっているわけですが、おそらく一番気になるところです。

 認定審査会で今まで要支援、要介護1から5まで審査会で審査したわけですが、もう一つ審査が加わったわけです。特に要介護1は従来の介護サービス適応に介護給付適応にするのか新予防給付適応にするのかの審査を認定審査会で更にしないといけない。新予防給付に該当する方は、従来の介護サービスではなく新予防給付のサービスを利用していただくことが原則になるわけで、少し仕組みが変わるのだと思います。
 新予防給付というのは筋力向上トレーニング、これはマシンを使うものとは限らないということで、その代表としてパワーリハもあるのだと思います。それから転倒骨折予防、低栄養改善、口腔ケア、閉じこもり予防の新たなサービス。これが今盛んに検討されているようです。

介護予防とリハビリテーションの発展

 私は制度上のことより、介護予防とリハビリテーションの発展にはともかくリハに関する啓発活動、研修体制の充実が必須だと思っています。これが一番重要であって、その理由の一つにリハを理解する医師がまだまだ足りないということです。リハは特別な人、リハビリテーション医とかが行うものであって、普通の医師が行うものではないという考えは、大変な間違いであり、リハビリテーションは急性期から在宅を担う医師までの全員が理解するべきものです。そしてソーシャルワーカーとケアマネージャーも同様であり、リハを知らないソーシャルワーカーとケアマネージャーは、十分な仕事ができないと思っています。それから看護、介護職はリハの技術をもっと高めるべきですし、もっと一緒に他のスタッフの支援ができるPT・OT・STつまりチームアプローチができるPT・OT・STが育っていかなくてはなりません。さらに、地域住民がリハとは痛くて辛いのを我慢して訓練することなどと理解するのではなく、本当の意味で生活を再建することがリハだということを地域住民に知ってもらう必要があるわけです。

事例紹介

 最後に事例を紹介してお話を終わりにさせていただきます。
 79歳の女性で脳卒中を患い寝たきり状態で自宅に閉じこもっていた例です。自宅でかかりつけの先生が診療したのですが、某病院に4年間入院していました。4年間車椅子に座ったのは一回だけ、そのうち座れなくなったわけです。なぜかといいますと、股関節、膝関節をぎりぎり曲げてこれ以上曲がらないわけです。そうすると座る姿勢がとれません。自宅に帰って理学療法士が訪問して訓練を行っていますが限界です。座らせてみますと、座っているというよりベッドに寄りかかっているという姿勢であり、本人にしてみれば痛くて辛いので、目をむいて手で爪をたて鷲掴みにして怒っているわけです。こうなるといじめているのかリハをしているのかわからない状態であり、ただこれをだましだまし丹念に訪問し、やっと関節が動くようになるのです。本来こういうことは病院の中でやってもらわなくては困るわけですがその病院は寝かせっぱなしだったわけです。だから在宅で苦労しなくてはいけない。座れるようになると顔の雰囲気がゴロっと変わります。そしてベッド上に座れれば車椅子にも座れます。車椅子に座って、この方は無類の買い物好きだったので、デパートに行こうと言ったら突然おめかしが始まって、なんと4年ぶりにブラシを手で持ったわけです。そしてこの方が自宅から外に連れ出すというときに、玄関に30cmの上がりかまち、そして敷居があり、階段が2段20cmあります。しかしレールを使って後ろ向きに外に連れ出せばいいだけの話です。ここで訪問リハは終了。開始があって終了があります。通所リハに切り替えます。通所リハをこのあと半年間。そして半年間で終了。いま通所介護、デイサービスです。そういうふうに臨機応変に変えていくということを、やっていかなくちゃいけないわけです。長期にわたり漫然とおこなっていれば、単にお金がかかる。もしくは効果があまりないということになるわけです。

 事例2です。
91歳の女性、大腿骨頚部骨折後寝たきり状態で自宅に閉じこもっていた例です。これは急性期病院にも責任はあると思います。伝い歩きができるようになった時点で、自宅に帰っていただいたわけです。ケアマネージャーが頑張りまして退院したその日から電動ギャッジベッドに移動バー付の手すりそしてポータブルトイレなどが整備されました。本人は、家に帰ったら入院中よりいいベッドがあるのでぬくぬくとして、全然自分で起き上がれなくなったわけです。そして、お尻には褥瘡ができかけました。ホームヘルプサービスは1日3回行っています。しかしそのケアマネージャーがこれはちょっとおかしいと、どうも退院した時より刻々と悪くなっているということで、早めに気がついたのだと思います。リハスタッフの訪問を頼むということで、アクセスが始まりましてPT・OTの訪問が始まって寝たきり状態であったのが3週間で自分で起き上がれるようになり、1ヶ月ちょっとたって伝い歩きでトイレまでの歩行練習ができるようになりました。そのリハスタッフたちは訪問看護やヘルパーさんと一緒になって、もっといけるということで、なんと階段の上り下り訓練をはじめて、そして自分が昔からいた定位置でドンと座って近所のおばさんを呼び止めて井戸端会議をするようになったわけです。さらに、屋外歩行訓練をPTが始めました。むしろ退院した時よりずっといいわけです。なんと、おしゃれをして1人で自立歩行になったわけです。そして1人で診療所の外来に通うようになりました。要介護4から要介護1への変化です。この間に4ヶ月かかっています。普通だったら退院した時に、ここまで仕上げて退院してくれればこんな苦労はしないで済んだんですが疑問が残ります。

  自宅だからこういうことが出来た。それには訪問リハとかケアマネージャーがそういうサービスがいいのだと気が付くところから始まりますし、チームを組んで動かなければここまではこないだろうと思います。
 以上、事例を紹介してこうした私は介護予防というのは、実は根幹にリハビリテーションの思想なくしては語れないということを最終的に申しあげた次第です。
どうも御静聴ありがとうございました。

■プロフィール■(敬称略)

石川 誠 氏

群馬大学医学部卒業、1975年長野県厚生連 佐久総合病院脳神経外科医員、1978年国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 脳神経外科医員、同病院分院 リハビリ担当医員、1986年医療法人近森会 近森病院 リハビリテーション科科長、1989年同法人 近森リハビリテーション病院院長を経て、2002年医療法人輝生会理事長 初台リハビリテーション病院院長に就任

<認定資格>
日本リハビリテーション医学会専門医
日本脳神経外科学会専門医

<所属団体>
日本リハビリテーション病院・施設協会 副会長
全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会 常務理事
全国療養病床協会 副会長
老人の専門医療を考える会 副会長

 


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