医療記録の開示
 

● 変えられないから"生活習慣病" ●


神戸新聞で連載 No.3

 たつじいさんは大のタバコ好き。喘息の発作もちでおまけに狭心症もある。だけどタバコがやめられない。喘息の発作を繰り返してゼーゼーいいながらやってくる。
「タバコ、減らしとる?」
「へえ、1日に1ー2本しか吸いませんで。」
「えらいなあ、よおがんばってんなあ。ところでタバコ1箱買ったら何日もつ?」
「え、2日ぐらいで。」
「なくなるの? 計算あわへんやん。」
「えへへ、ばれてしもた。」子供の時から吸っているタバコ、いまさらそう簡単にやめられるか、という感じだ。

 私自身、5年半前の開業直後のストレスで吸いすぎて気分が悪くなってふとなんとなく禁煙に成功したせいもあって、患者さんへの禁煙指導にはきびしい。「どうして禁煙しないんですか。百害あって一利なしですよ。肺がんになる確率は、、」と高圧的だ。しかしアルコールに関しては自分が良く飲むためにどうしても強く言えない。「休肝日、最近は週休2日ですから肝臓もそのくらい休ませてあげたほうがいいんですが、実際はなかなか。。。これからビールがおいしい季節ですし、しかし医者としてはやはり立場上、禁酒ということをおすすめしますが。。。」などついあまくなってしまう。勝手なものだ。

 "生活習慣病" かつて成人病と呼ばれていた病気の呼び方が変わった。睡眠不足、たばこ、太り過ぎ、お酒、運動不足、朝食ぬき、間食といった生活習慣が病気のもととなるというわけだ。毎日変わらないから生活習慣というのであって、医者にちょっと言われたぐらいで簡単に変えられるなら誰も苦労はしない。生活習慣を変えたくない、でも病気にもなりたくない。そんなわがままは今の医学では残念ながらかなえられない。食べても食べても太らないおいしいまんじゅう、吸入の代りに一服吸うと喘息発作が治まるタバコ、飲めば飲むほど肝臓によいビール。でもそんなもの、本当にあったらなんとなくこわい気もする。

 喘息発作をおこしながらもタバコをはなさないたつじいさん。それでも苦しくなるとなんとかしてくれとやって来る。医学的にはあきらかに間違った生活習慣には違いないが、そんなこと百も承知の上での習慣だ。好きなタバコもいまさらやめたくないが、喘息の発作は何とかして欲しい。そんなわがままをとりあえず聞いてなんとか付き合ってみる医療もあっていいかもしれない。そこには医学的な管理や指導、教育といった言葉は似合わない。
 患者さんの生活習慣を指導、教育という前に医者もつい患者さんに高圧的に「タバコ、酒はダメ」と禁止事項を押し付ける診療習慣を改める必要があるように思う。この習慣も患者さんにちよっと言われたぐらいでは簡単には変えられない? かもしれないが。

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