医療情報の開示
 

患者が創る自分の「病歴カード」

 

 4.「患者が創る病歴カード」の意義

 a.初めての医療機関を訪れた時に
  健康上の問題で初めての医療機関を受診する時、患者は医者に対して、現在悩んでいる自分の病状とともにこれまでかかった疾患(既往歴)やアレルギーなどの特殊な体質、あるいは健康や療養に関して常々気になっている事柄について説明しようとする。

  患者にしてみれば、自分の苦痛を少しでも詳しく医療者に伝えたいと思うのだが、要領よくしゃべろうとして緊張していたり、これまでに医者にかかった時の経験で嫌な思いをした記憶が残っていて変に警戒心が強かったりして心の動揺が大きくてリラックスした状態にはなりにくい。一方の医者の方から見てみると、数十年も前からの「すべての病歴」を隅々まで伝えてくれようと努力したり、過去に経験した苦痛を直説法で必死になって話して戴いても、重要な病名や病態についてはうまく伝わって来なかったりして、状態の把握に困難を感じることも少なくない。
 またこれはよくあることだが、具体的な罹患の年月を忘れていて、なかなかうまく病歴を伝えられないことも多い。誰にとっても、いつ重要な疾患にかかったかと問われても即座にはその具体的な数字を申し述べるのことは実際には困難な事である。
 このような患者と付き合う日常の経験から、これまでにかかった病気の歴史や手術・輸血の有無、大きな外傷、重要なアレルギーといった各人の医療に関する惰報を1枚の「病歴カード」にまとめておいて初診時に提出して頂くと実に重宝であると感じてきた。自分の担当する分野と関係の深い項目に印をしながら患者の説明を聴き、 適当な質問をしてこのカードにメモ書きを追加して、これをカルテに貼付しておけば 「既往歴」の整理として便利だろう。こうしておけば、心おきなく、現在の症状や悩 みに関する情報の収集に集中できるのではないか。

 b.救急の現場でも
 また、緊急の事態が発生して、不幸にも救急車のお世話になるような場合にもこの記録が威力を発揮することは言うまでもない。激しい苦痛や意識のもうろうとした状態で自己の病歴を説明するというのは、考えただけでも難儀な、効率の悪い作業であろう。さらに、意識を失っている時には、本人が説明するのは不可能なのだから、家人や介護している方が替わって救急隊や医療機関のスタッフに、この「病歴カード」を手渡せばよい。実際に、救急医療を経験したあとでは、このような「病歴の記録」を、平常時から作成しておくことの重要性を実感したと、多くの患者や家族がが語っている。

 c.患者自身が作成する
 作成するにあたっての具体的な方法を述べてみよう。「病歴カード」作成の希望者には、まずクリニックから「病歴力一ドのモデル」を手渡し、これを参考にして自宅で自分の病歴の下書きを作って戴く。 自己に不利になるので公表するのは嫌だと思う事項は記入しなくてもよい。自分の病歴を、自分の責任で作成すればよい。

 これを次回の診察時に持参し、これまでのカルテを参考にしながら、主治医が一緒になって考え、適当に加筆・修正の作業をする。患者は、ややもすれば、過去の身体の異常について何もかも詳細に記載しようとすることが多いが、「雑音」は少な目に絞り込んだ方が良い。つまり、その後の患者の人生に影響をしないだろうと判断されることは、主治医との相談で記載する必要はないだろう。今後の生活に関わってきそうな事項だけ記入すればよい。  例えば、血液型などの記載は、通常はどちらでもよい。A型やB型といったことはいざ輸血となれば病院で検査し直すのだから記載する必要はなく、もしRh(−)といった特殊な血液型であれば、輸血が必要な時には重要な点となるから記載する。また、アレルギーに関する情報はかなり混乱していて、過去の医療経験からの思いこみからの誤った記憶も多いかも知れないが、日頃気になる点があればその項目を作ってきちんと記載しておいて、医療のそれぞれの時点で主治医に相談するようにしたい。心臓人工弁手術を受けていて抗凝固療法としてワーファリンの投与をうけている旨の記載はきわめて重要である。

 主治医との話し合いで訂正、加筆したのちに(私の経験では、診察中の数分間でチェックできる)、スタッフがコンピューターに登録をしてカードを作成し、次回の診察時にB5版10枚のコピーをお渡しする。10枚あれば、2、3年は用が足りよう。 入院などの大きな医療上の出来事があった場合にはその都度に加筆してまた新たに1O枚のコピーをお渡しすることになる。

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