医療情報の開示
 

● 「誰のため、何のための医療情報開示か」 -2- ●


副作用情報の提供はコンプライアンスを阻害するか?

 96年4月から薬剤情報提供加算が、さらに97年4月からは薬剤情報提供料とな って当初見送られた副作用と相互作用の提供が加えられた。患者に文章で提供することを義務づけその提供に際して診療報酬が与えられる、医療の専門家が提供する形としての情報そのものにコストがつくいわゆるインフォームド.コンセント料を厚生省が認めた画期的なできごとである。
 この薬剤情報提供に際して問題となるのが「副作用について説明するとコンプライアンスが悪くなる」という考えだ。副作用情報が決してコンプライアンスを阻害しないことは色々な研究でも証明されているし、私の経験でもそういったことはほとんどない。もし阻害するとすれば副作用情報の提供のしかた、副作用出現時の対応(すぐに医者に相談する必要があるのか、やめて様子を見ればよいのか、がまんして続けていいのか)に対する説明が不十分なためと思われる。患者が”クスリの副作用かな?”と感じてクスリの内服を中止し、受診までも放棄してしまった場合はコンプライアンスは悪くなる。
「副作用が怖くてクスリをやめた、なんてとても先生に言えない、、。」今まで医療者がこのような患者のクスリに対する不安や疑問をブロックしてきた結果、患者も医療者に伝えようとしないコミュニケーションギャップが根底に存在する。患者がクスリに関して不安や疑問を持ち内服を中止したとしてもそれを医療者に伝えてくれれば一歩踏み込んだ対応、クスリを中止するか、変更するか、説明し納得して続けてもらうか、他の治療法を選択するかといったことが可能になり決して治療は中断しない。十分な副作用と効果(リスク&ベネフィット)の説明がなされた上で患者が服薬を希望しない場合は、医療者は薬物療法以外の治療方法を患者に示した上でそのリスクともども患者に納得して選択してもらう必要がある。クスリによる治療効果と副作用の発現頻度を数字で示して患者に説明していくことも必要になってくる。天気予報で降水確率30%という情報を得て傘を持っていくかどうかは個人の判断となるように、正確な情報を提示して内服するかどうか患者の判断を尊重するという方向になっていくだろう。

製薬メーカーへの要望 

   クスリの情報提供に関してはメーカーにもっと努力してもらいたいと思っている。 世間の常識からいえば”消費者にとってわかりやすい説明書はメーカーが作って製品に添付する”のが当り前だからである。製薬協やRAD−AR協議会などで検討された患者向けの”クスリのしおり”が作られているが、一般にはわかりにくい記載方法や、副作用の内容や対応が不十分など問題点も多い。企業による医薬品情報の一般への提供を禁止する医薬品適正広告基準や、メーカーからのクスリのしおりの提供が医療機関の薬剤情報提供料への労務提供になるとして原則として配布に制限をつけているなど、これも世間の常識からかけ離れた制度上の問題も大きい。
 「薬局で買うクスリ(OTC)には説明書がついているのになぜ病院でもらうクスリには付いていないのか?」という当たり前の疑問にどう答えればいいのだろうか。「医者からもらったクスリがわかる、、」の類いの本が相変らず売れている現実を直視する必要があるだろう。医師や薬剤師の頭越しに患者に情報提供しにくいという事情はあるにせよ、普段の売り上げ重視の営業姿勢と違ってこのような情報提供に関する時に限って妙に保守的で横ならびに規則、制度に従順な製薬業界の姿勢に疑問を感じる。すべてのクスリのシート一個ずつに日本語で商品名を記入し、可能なら効果や重篤な副作用、相互作用などもシートに直接記入、さらに副作用情報を含めてエンドユーザーである患者に正確でわかりやすい情報、クスリのしおりをきちんと提供する、といったメーカから患者への直接の情報提供のありかたについても根本的に考え直す時期であろう。

薬剤情報提供今後の課題

 薬剤情報提供料は情報開示の促進という一面だけでなく、PL法との相乗効果で医師 、および薬剤師のクスリに対する責任を重くしていることも忘れてはならない。すなわち医師および薬剤師はPL法で添付文章に副作用を記載することによってメーカー側から、薬剤情報提供料に副作用、相互作用を含めることで行政側から、クスリに関する責任を転嫁されているといっても過言ではないだろう。医師、薬剤師はその責任をさらに一方的に患者に転嫁することなく専門家として責任を果たす姿勢が求められる。その中で薬剤師の果たす役割は今後ますます重要になっていく。
 97年4月より薬剤師法が改正され、薬剤師は調剤した薬剤の適正な使用のために必要な情報を提供しなければならないという情報提供義務が明記された。この改正を薬剤師自身が負担としてでなく追い風としてとらえ情報公開を進めることによって患者のクスリに対する不信、医療に対する不信を取り除いていく必要がある。また情報提供料に際して考えねばならないことは、医療費自己負担増の流れの中で情報提供料は本来消費者(患者)の同意があって初めて算定できるものになっていく可能性があるということだ。”病院でもらったくすりがわかる本”を読むから情報提供料は取らないでほしい、と言われる時代は近いかもしれない。薬剤情報提供は単に医療情報の公開のひとつとしてではなく、クスリを介した患者ー医療者間のコミュニケーションを再構築するための根源的な条件として考える必要がある。

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