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● 咬合の全身への影響 ●



W.考 察

 現在、老人医療費が全体の約4割を占めており、国家財政事情からも、老人医療費の節減が急務となっている。一方、咬合の全身への関与が明らかとなり、歯科領域からの全身への対応が行われているが,老人医療問題解決のため、歯科医療がどう貢献できるか追求した。
 老人医療費が膨大化しているが、痴呆、半身麻痺、寝たきリなど老人に特徴的な疾患に有効な治療手段がなく、在宅介護を拒否された老人患者を長期間入院させたまま、治療目的というより、医療費獲得目的とも思える、過剰検査,過剰投薬を行う現在の医療体制にも問題がある。

 核家族化、在宅介護制度の未熟さを補うための必要悪か、老人病院が「姥捨て山」化している。病院が医療現場である以上、在宅介護が可能な程度にまで、病人を回復、退院させなけれぱならないが、今回、報告したように歯科治療が老人医療問題解決に抜群の効果を発揮することがある。

 症例1では,リハピリを7ヶ月間継続していたが、ほとんど奏効せず、寝たきりのままであった。著者の推計で、この7ヶ月間に、入院とリハビリだけで約110万円の医療費が使用されている。実際には、各種検査代、薬代が加算されるが、歯科医療費はわずか約8万円であった。しかも自力歩行が可能になるまで、わずか1週間である。

 症例2では、17年間に及ぷ半身麻痺に歯科医療が有効だった例といえよう。ただし、こうした例はきわめて稀である。通常、10年以上経過した脳梗塞後の半身麻痺は、リハピリを行っても、症状の改善はあまり期待できないそうである。ちなみに、脳梗塞発症以前に歯科治療を受けていれば、発症は予防できたであろうし、発症後も、早期に咬合を回復しておけぱ、軽症ですんだと思われる。ちなみに、このl7年間に費やした医療費は、リハビリだけても、推定で数百万円にのぽる。一方、歯科医療費は約lO万円であった。

 症例3の患者は、l0年以上無歯顎だが、義歯は所持せず、脳梗塞後遺症の左半身麻痺も10年以上継続している。体調が悪いとのことで、―度著者が上下顎総義歯を装着した。その後、体調は改善したが、装着時の不快感から、義歯を使用しなくなった。体調改善が義歯装着による咬合の回復によるものか、他の要因によるものかを判定したかったので、義歯再装着は強要しなかったが、脳梗塞発作を再発した。再発後、完全に寝たきりとなり、重度の栄養不良状態に陥り、延命処置段階に入った。再度総義歯の使用を看護婦に命じた結果、全身状態は改善し、退院したが、患者も義歯の効果を認識するようになった。このように歯科は、生命に直接関与する重要な医療分野である。
 ところで、この総義歯製作に費やした医療費は約8万円であるが、生命維持装置とも思えるこの義歯の評価は適正といえるだろうか。また、患者の生命を守るという意味でも、総合病院や老人病院などでは歯科の設置を義務付けるなどの対策も必要である。

 症例5は、痴呆の例である。これまでも噛むことはボケを予防するといわれてきたが、治療にも有効であると思われる。ただ、痴呆に関しては、その程度を調べる問診表などはあるが、客観的判定は困難なため、本症例においても退院可能の判定は、著者の進言をもとに担当医が行った。
 歯科治療における作用機序の推察であるが、片麻痺や痴呆症状の改善症例から、脳血流の改善、およぴ咀嚼運動による脳への刺激が主たるものと考えている。
 たとえば、症例3の場合、義歯装着前には頭部が後傾し、後頸筋群の緊張症状が推察でき、それが原因で推骨動脈不全が生じていたのではないかと考えている。適切な咬合回復により前頸筋群の緊張と後頸筋群の弛緩はしばしぱみられる現象である。

 また、症例1や4などはそうだが、咬合支持を与えることにより、身体動揺が減少し、歩行が容易になった可能性もある。また、身体を支える筋力が増加したとも考えられる。
 最後に、こうした歯科治療の効果を、マスメディアなどを通じて、もっと社会にアピールする必要がある。ただ、こうした認識に対する受け皿としての歯科界の充実が必要なことは言うまでもない。

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