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● 咬合の全身への影響 ●


− 主に老人医療問題解決に貢献する歯科医療とは −


提供: 大野歯科医院 院長 大野 正光(八尾市)

Abstract

 The average life span has been definitely increased by advances of medical treatment. On the other hand, the various sicknesses specifically for old-aged individuals, such as dementia, bed-ridden or one-sided paralysis has been increasing.
 The medical trouble has been magnified because of the few effective treatments for such sicknesses.
 It has been suggested that there is a close relation between the biting position and the whole body condition.
 The purpose of this study was to investigate the effect of dental treatment on old-aged specific sicknesses.
 As a result, the dental occlusal treatment sometimes may be quite effective on such sicknesses not only over the oral area but also on the whole body. Therefore, the re-estimate of dental treatment should be necessary for advanced combination of medico-dental procedures.
 Moreover, such effects of dental treatments should be spreaded throughout society.

 Key words:Occlusion, Whole body health, Gerontology, Dental treatment

T.緒 言

 高齢化社会が到来し、痴呆、寝たきり、半身麻癖など、老人に特徴的な疾患への対応が社会問題化している。国民医療費は25兆円を突破し、歯科診療費や調剤薬局の医療費などを除く国民一人当たりの一般診療費は、15〜40歳で7.5万円に対し、70歳以上では62.5万円(I992年度)で、財政事情からも、老人医療費の節減が急務である。

 近年、咬合の全身に対する影響が明らかにされ、不定愁訴など全身疾患への歯科領域からの対応が行われている(1〜7)。著者も,スポ―ツ選手の記録向上や故障の治療、また、不定愁訴などの慢性疾患に対し、咬合治療の有用性を検討してきた(8〜15)。
 今回、老人病院での歯科治療の結果、歯科医療が、老人医療問題解決に貢献する可能性か示唆されたたので報告する。

U.方 法

 痴呆、寝たきり、脳卒中後遺症の半身麻廊(片麻痺)など、―般医科治療が奏効していないと思われる疾患に対する歯科治療の効果を検討した。生理的咬合位の探索には東洋医学的手法も応用した。(16〜20)

V.症 例

 症例1(寝たきり):88歳,女性.自宅で転倒し腰部を強打、骨に異常はなかったが、以後、寝たきりとなる。家族に在宅介護を拒否され,入院.リハビリを継続しているが奏効せず、約7カ月間寝たきりである。理学療法士の紹介で歯科を受診.長期間の寝たきり生活のため、足首の内転がみられれた。上顎左側第2大臼歯を除き無歯顎だが、義歯は使用していなかったので、所持していた旧義歯を改造、装看した。義歯装着のまま、リハビリを行った結果、わずかI週間後に、約50メ―トルの自力歩行が可能となった。

 症例2(半身麻痺):83歳,女性.脳梗塞のため、完全ではないが、左半身麻庫がl7年間継続してい る。リハビリを続けているが、奏効していない。歯科受診時、残存歯は少数で、ほとんど咬合しておらず、ブリッジと部分床義歯で咬合の回復を図った。その結果、咬合回復後約4ヶ月で、不可能だった左指をそらす運動が可能となり、約5ヶ月で左腕挙上が可能となった。

 症例3(半身麻痺と寝たきり):7O歳、男性.脳梗塞後左半身麻痺が10年以上継続していたが,発 作が再発、寝たきり状態となリ、高度な栄養不良状態に陥り、延命処置段階に入っていた。
本患者には、著者が、かつて総義歯を製作したが、使用していなかったため、義歯の再使用を命じた。その結果、全身状態は改善した。その後、半身麻痺に変化はないが、車椅子での移動は可能となり、退院した。

 症例4(寝たきり):8O歳、女性.骨粗鬆症などのため、4年間寝たきりの無歯顎患者である。義歯は所持せず、理学療法士の紹介で歯科を受診。上下総義歯を新製したが、装着後わずか3週間で、歩行器を使用しながらの歩行が可能となった。

 症例5(痴呆):82歳、女性.夜間俳個を主症状とする痴呆のため入院。上下顎無歯顎で,上顎には維持の悪い総義歯が装着され、下顎義歯は所持していなかった。上顎義歯を裏装した後、下顎義歯を新製、装着した結果、約1カ月半で退院可能となった。

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