事例 5)
1.事案の経過
70歳 女性
診断:急性心筋梗塞
治療:不安定型狭心症にて来院しているにもかかわらず(心電図変化あり)、投薬のみで帰宅させ、直後に心筋梗塞発症、翌日来院時には心原性ショックから死亡
2.判決の内容
判決:一審原告勝訴後確定
鑑定: 当会鑑定医
高脂血症のある70歳の患者が発症3日前から胸痛を来たし、発症時には不安定型狭 心症を疑うことが医師として常識的であり、その時点での心電図変化もまた典型的な心
筋虚血・障害を示しているのであるから、その時点で循環器診療に委ねるべきであった
大学教授
(1)心電図は循環器専門医でなければ心筋虚血・障害変化は診断し得なかった変化で あり、気付かなかったことは許容しうる。前回の心電図を取り寄せることは時間外で、
非常勤医であったので出来なかった
(2)現在の救急診療体制は不備であり、巷で一次診療を行っている一般医に循環器疾 患の診断を期待することや出来なかったことに対する責任を問うことは同意できない
(3)一度帰宅してから再来院するのが遅れているのは患者および家族の自己責任であ り、医師がそういう警告を与えなかったことは不問にする
当会鑑定医の反論
(1) 発症3日前に前駆的症状があり、急性に発症した不安定型狭心症の診断は一般医でも十二分に可能であり、心電図変化も明らかであり、よしんば判定しえなくとも以前の心電図と比較すればその変化は学生でも指摘しうるものである
(2) インフォームドコンセントは医師が患者に与える義務があり、特にこのような冠動脈疾患が疑われる例では、患者の希望で帰宅させるとすれば心筋梗塞のような疾患の鑑別診断とその予後について厳重に警告されねばならなかった
本件はあくまで医師の方針で警告なしに帰宅させられているのである
(3)大学教授の鑑定では"きちんとした病歴の聞き取りが行われ、理学的所見も確認され ており、しかも心電図を正式に記録している"から診療は妥当であったとしている
事実は ;
「きちんとした病歴」は
Sx)5.17.夜 階段をのぼった直後に左前胸部〜左上肢にかけてのpain出現。1時間ほどで消失。本日(注5.20のこと)テレビを見ているときPM6:00頃より同症状出現、持続するため受診
である
「確認された理学的所見」は
Cx) P.R. 65/m reguiar B.P. 118/80 mmHg conj. a (+) T(-) lung,
heart n.p. EKG LVH(V4,6でのST dropはLVHによる) ASS)左上肢のpainがあるためischemic
heart diseaseは考えにくいが、治療診断としてpain出現時ニトロール舌下を指示 であった
病歴は正確に判断されておらず、理学的所見は心所見は異常なしであり、正確に聴診された証拠がない
EKG変化は左室肥大とされており、根拠が不明であるV1、2ST上昇、V4-6ではSTの 2-3mmの降下が見られたが評価されていない
このような実態が許容範囲の初診であったとしていることは正確な鑑定とは考えられない
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