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第16号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2007年6月10日発行


第5回研究大会 パネルディスカッション  <地域で支える医療と介護のネットワーク> 
問題提起 『在宅医療の役割 2038年問題を考えよう −在宅死は病院死を超えれるか−』 
大阪地域医療ケア研究会 会長 中嶋 啓子 氏

 

在宅医療を主体的に担うのは誰か?

 2006年4月に在宅医療推進という言葉が出てきて、在宅医療の在り方も変わってきました。それと同時に2038年問題として、これから死亡者が増えていきます。
 在宅医療が推進されていると言われますが、自分の在宅を本当に担ってくれる医者はいるのかと思っておられる方もまだ多いのではないのでしょうか。いま医師会をはじめ、在宅医療に前向きに取り組もうという先生方が増えております。去年の診療報酬改定の中で、在宅療養支援診療所が出てきました。厚労省・国は本気で在宅医療を進めていこうとしている中で、在宅医療を担うのは病院でもいいのではないかという意見もあります。しかし、私は患者さんと同じ目線で働く診療所の役割が地域医療のコアにならなければならないし、またその小さいコアが一つにまとまり、地域医療の要でもある病院も含め、地域の医療、在宅医療のコアになっていく必要があると思っています。


看取り、緩和医療は誰が担うのか


 在宅療養支援診療所では「看取りの数を報告する」と、明らかに在宅医療で看取りを薦めているわけですが、看取りは家で亡くなれば看取りかというとそうではなくて、直前までいろいろな医療が必要です。例えば、高齢者が最後亡くなるにあたっては、食べられなくなったり、酸素が必要になったり、あるいは吐血、下血、いろんなターミナルの姿があります。それらには必ず医療が必要になってきます。したがって死を前提とした緩和医療、看取り医療というのは一体誰が担うのか。今までは、ほとんど病院が担っていましたが、これからこの病院死を超えて在宅死が増えていくかどうか、あるいは増やす必要があるのかを問題提
起をしていきたいと思います。


在宅医療時代が到来


  診療報酬では色々な内容的改定が行われました。一つは在宅医療の推進で、「在宅療養支援診療所」ができたということと、もう一つは看取り、ターミナル医療にメスを入れ、「在宅での看取り」の推進です。介護報酬では予防重視型へ、在宅重視型へ移行していますが、多難な道だということがわかります。
在宅医療は、赤ひげ時代から、生活の中で医療が行われてきました。困った人がいればそこに行くというところから始まりで、小石川療養所は幕府の指定で行っていました。そこで新しい医療の連携がスタートしました。市民生活の暮らしの中で治療し健康を得ていく、病気を治す、困ったことを治すという形で進みました。在宅医療の基本(原型)がそこにありました。
 しかし、戦後、病院の医療が全盛期を迎え、病院に行きさえすればすべて解決するという時代となり、それから地域や暮らしの中で治していくという、新たな時代展開を迎え、在宅医療がいま歴史として刻まれつつあります。それが介護保険制度になってより鮮明になり、在宅療養支援診療所ができ、医療の高度発展の中で、障害あるいは病気を持ちながらも、「どう生きて生活していくか」ということに対する新しい支援の形が求められてきました。この新しい形の在宅療養支援診療所の役割が、在宅医療を作っていくのです。しかし歴史が変わろうとも医療の原点は暮らしの中にあります。したがって、その人が生活していくには、QOL(生活、生命、人生の質)に関わる在宅医療が必要になってきます。胃ろう、気管切開、バルンなど様々な医療ニーズを持った人たちの生活をどう支えるか、今後問われています。


国民医療費の見通し

 医療費は経済成長を上回る3〜4%程度の伸びがあります。国民所得費に関しては現在、8.8%から2025年には13.2%に増えていきます。老人医療費が占める割合が半数以上で、この老人医療費を抑えることが国民の医療の負担軽減になっていくと言われています。国民医療費の分配はどのようになっているのか。病院医療で合わせると52%半数以上が病院です。診療所はまだ23.9%ぐらいで、8万〜9万の先生方が大半の人たちを診ているという現状があるわけです。この病院医療費の大きい部分をいかに減らしていくかが今日の課題になっています。
 在宅医療費が国民医療費に占める割合は2%ぐらいです。在宅には医療費はほとんど出ていないのです。在宅でもお金がかかるといわれながら、実際の医療費は総医療費から比べればたった2.3%です。この医療費の偏った構図のなかで、医療費抑制政策が一方では行われているのです。この医療費の増加の構図は、分析によると老人医療費の増加です。一方では病院における平均在院日数が長いこと、生活習慣病が増加しているということも考えられています。したがって、生活習慣病対策によって死亡者は減少しますし、そのことを目標に25%減を獲得しようと考えているということです。


病院死から在宅死へ

 一方、死亡者の人数は平成21年には110万人、これが2023年には170万人といわれています。団塊の世代が高齢化となり、死亡者が増えていくのです。この2038年には、自分自身がどこで亡くなるのかを考えなければいけません。現状を見ると医療機関における死亡の割合は、平成14年で病院死は約8割、自宅が2割なのです。昭和51年はその逆の2割、8割というように、高度成長の少し前から入れかわってくるのです。
 暮らしの中で医療を受けながら亡くなるというのが、人間の姿であったのではないでしょうか。この医療費抑制政策の中で、ひとつは病院死を減少させ、終末期医療を在宅でと言われています。病院の社会的入院や、且つ死亡にもつながる在院日数を短縮し、それらを実現するために介護保険を調節していくことが今日の課題ではないかと思われます。したがって急性期から回復期、慢性期を経て在宅医療への切れ目のない医療の流れを作り、患者が早く自宅に戻れるように、患者の生活の質を高め、必要十分な医療を受けられるような仕組みづくりをしていく。そのために医療機能の分化・連携という、療養も含めて役割をきちんと分担していくために在宅療養支援診療所ができました。


在宅療養支援診療所とは

 在宅療養支援診療所は看護職員と共に考え、医師又は看護職員が患家に出向くことで、問題の解決を担います。同時に医師は24時間往診が可能な体制を作っておかなければいけません。病院への緊急入院も含めて、緊急体制を確保し、現代的なことはケアマネジャーとの連携をするということです。ケアマネジャーにきちんと在宅看取りを報告する。これは今までにない大きな事だと思います。24時間体制というのも保障しています。療養を支えるための取り組みポイントは、病院から退院した人をどこで受け入れるかということです。
 実際、退院してからの生活、終末期へ向けての生活は、住居の確保や家族の介護負担軽減、多職種連携の中で実現します。また、ターミナルまでケアマネジャーが看取り体制を組んでいく。これが厚労省の方針であります。我々自身が在宅を担うというのは、家で死を迎えたい、家族と共にありたい、地域の中で生活したいということを保障していくことでもあります。しかし残念ながら、まだ在宅療養を実現することは現実的には困難な部分があります。一番困難な部分は、介護する家族の負担が大きいことと症状が急変した時の対応できるかどうかの不安があることです。この二つの問題が大きく、その他はサービスが十分でないということと介護する人が必要だということです。
 介護保険でかなり整ってきましたが、まだまだ家族の介護負担、すなわち社会的介護の不足と家族自身が介護するときの社会体制がまだまだ整っていません。また、疾病構造の変化、障害の変化、その人たちの自立について関わりが不十分です。そのために在宅医療ということが進まない現状があるのではないかと思います。在宅で療養して頂くためには、そこに介護がなければ医療そのものが入っていけません。在宅死は、まだまだ受け入れられていないのです。この在宅死が病院死を超えていくために何が必要なのかということを、一緒に考えていただく必要があります。


死に対するコンセンサスを社会全体で考える

 社会介護の普及と同時に医療がきちんと提供され、困った事に最後まで対応できる医療的サポートを行うということと、死についてどのように考えているかが大切です。戦後、高度医療の発展の中で延命治療が最大の課題となり、死を遠ざけ忌み嫌ってきました。そういった死生観を捉えなおし、人間は生きて死んでいくということをもう一度考えてみる必要があります。
 それから老いや障害は遠ざけたいものとして扱われています。人間は生まれ、元気に過ごし、子どもをつくり、老い、そして死を迎える。そんな中で、老いも疾病も自身が在宅でどう生きていくかということではないのでしょうか。戦後の民主主義という言葉を使うと語弊がありますが、社会自身が死に対してのコンセンサスが得られていない中で、在宅死の基本的な事「どう生きていくか」をテーマにしながら考えていく必要があります。例えば、サービス担当者会議というかたちを通して死をどのように考えて看取っていくかがその方の最期の姿になるのではないかと思います。
 「病気なら病院に行くしかない」のではなく、その人自身がどのように生きてどのように死ぬかというあたりに入り込み、考えていくのがケアマネジャーの課題になります。また、医療者の課題にもなっており、特に在宅医療を担う診療所の役割になっていくのではないかと思います。

まとめ

 在宅死は、厚労省の推進もあり、今後進むであろうと思われます。自分が老いていくにあたっては、「どのように生き、死にたいか」を家族に伝え話し合う、死を身近な友人や家族、友達、あるいは子どもたち、親などを通して最後まで話し合えることが大切ではないのでしょうか。ターミナルまでの生活を創造して考えていく必要があると思います。
 ケアマネジャーは重要な軸になります。「在宅で最後まで過ごしたい」という思いを受けとめ、そのために少し努力をし、すぐ施設や病院に送るのではなく、地域という中で苦悩し合い「生きていて良かった、家族の近くにいて良かった」ということを作るための役割を担っていく位置にあるのです。
結論的にいえば、最後の生活を支えるためには医療と介護の両輪というものがなくては何事も出来ません。病院死を在宅死が超えられるかどうか、これからの大きな社会的な課題であり問題だと思います。大阪地域医療ケア研究会では、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。


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