ホスピス
 

● 黄色の薔薇に囲まれて ●


―愛する人と別れるとき―


 順調に回復室から戻りホッとしたのもつかの間、次々と問題は起こりました。
人工肛門は造設されませんでしたが、大きな術創とたくさんのドレーンは痛々しく、腸管麻痺・縫合不全・静脈炎などの合併症と長い間のぺッド上臥床生活は身体的にも精神的にも辛く耐え難い日々でした。詳しい事情を知らない方は次々にお見舞いに来られ、「親戚ががんで亡くなって…。」とか、「誰々ががんらしいがどれくらいもつやろか?」などの話しをされ(もちろん悪気はありません)、大きなストレスになりました。
 主人は嫌な顔ひとつせず応対しますが(私は、いつ切れてもおかしくない状態)、お見舞の方が帰られた後の疲れようを見ると「これは何とかせなアカン」と思い相談するものの、「反対にお見舞いに行く立場になったらタイミングと話題にほ気を付けような「 それに、弱いところ見られたくないんや」と言って頑張り続けました。そこで、看護婦さんに何か良い方法はないか?と相談すると分かりましたと言って“面会謝絶 お見舞いの方はナースステーションまでお越し下さい”と張り紙をしてくださいましたが、それでも効き目は無 し(驚いて詰所に行ったのは家族だけ)。考え抜いたあげく、「悪いけど、これからお見舞いに来てくれる方を選ばせてもらうからネ。ちゃんと相談するから…。」と伝えました。主人は「あんたに任せるワ」と、どこかホッとした様子でした。

 病棟内歩行可となってから面会謝絶の紙は取られ、排液を促すためと1日3回廊下を歩き、疲れたらナースステーシンで休憩して雑談を楽しみ、売店に買い物に行ったり、車椅子で散歩に行ったりと歩けることの喜びを全身で現していました。「昔、ヒモになりたいと思ったことあったけど、ほんまにヒモになってもうた「ようさんの点滴のヒモにつながれて…。もう、ヒモになりたいなんて思わへん!」と大笑いしたこともありました。楽しい日ばかりではありませんでした。些細なことで夫婦喧嘩をしましたが、それなりに乗り越えてきました。私達夫婦はどちらかが弱気になると、どちらかが励まして気をとりもどしてきましたが、入院生活が長引くと前向きの気持ちも萎え「2人でここから飛び降りたら死ねるよね」と口にすることもありました。
 縫合不全の治りが悪く入院中ほとんどの間、絶飲食ということも不安を大きくするものでした。症状に一喜一憂しながらの3ケ月でしたが、退院する頃には肌寒くなっていました。

<再発>

 退院後、がん患者がモンブラン登山をしたというニュースを思い出した主人は早速ある病院に連絡し、がんに負けずに目標を持って生き抜くための自己学習を始めましたが、この事が私達夫婦を精神的に強くしました。
 がん・難病・人生の困難を克服する学習として
  1)自分が主治医のつもりで病気と闘う
  2)今日1日の生きる日標を持つ
  3)人のためになることをする
  4)死の不安恐怖と共存する
  5)もしもの場合の建設的準備をしておく

 そろそろ仕事を始めようか?というときに主人の体に変化がありました。左足に神経痛のようなピリピリとした痛みを感じるようになりました。お正月を控えていたので温泉に行ってゆっくり過ごしましたが、痛みはあまり良くならず不安がよぎりましたが、退院して1ケ月でしたから再発を疑いたくありませんでした。そろそろ仕事を始めようか?というときに主人の体に変化がありました。左足に神経痛のようなピリピリとした痛みを感じるようになりました。お正月を控えていたので温泉に行ってゆっくり過ごしましたが、痛みはあまり良くならず不安がよぎりましたが、退院して1ケ月でしたから再発を疑いたくありませんでした。
 新たな気持ちで新年を迎え、痛みを持ちながら徐々に仕事をはじめました。
仕事に打ち込みドライプをしたりして気を逸らすのですが、太股の内側から肛門にかけてしびれるようになり痛みのために食欲はおち夜も眠れない日が続き、抱きしめた主人の体は痛みに耐えすっかり痩せていました。代われるものなら…と泣かずにはいられませんでした。『終末期の疼痛緩和』という言薬を耳にする機会がありますが、本人にしか分からない体と心の痛みを取り除ける環境が1日も早く整うことを今でも強く感じています。神経プロックをすることで比較的楽になるが否応なしに再発を考えずにはいられなくなりましたがお互いに"再発"を口にすることはできませんでした。
 このころの主人の日記を読むと"痛みとの共存”について多くのことが書いてあります。

*今日できることは今日する。
*手紙を書いたり、笑顔のプレゼントをするといった、何か人の為になることをする。
*自分の周囲に目を向ける。
*過去は変わらない、現在を変えることによってしか変わり得ない、全ては自分が今、何をするかにかかわっている。
*どんな感情からも何がを学び取ろうとすへき。
*悩みの種は何か?それに対して自分は何ができるか?どうするか決断して実行する。
*がんに克つ!神経痛に克つ!まだ毎日は日記を書かない。遺書も書かない。再発したら書く。それまでは生きることに目標をおいて頑張る。
*痛みのコントロ―ルに挑戦!
*自分の闘病・生き様を話し、残しにい!

書き上げればきりがありませんが主人の強さを感じます。言い換えればそれだけ不安・恐怖も強い物だったのでしょうが、人は逆境に置かれてもこんなに強く生きられるのかと考えさせられます。

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