ホスピス
 

● パパらんの贈りもの ●


 8月31日、この日は夫のかつての教え子で翌春にはもう成人式を迎えるという子供たちが夫の病を知り、急きょ相談して夫のために同窓会を開いてくれることになっていました。夫はその日をとても楽しみにしていました。その同窓会を目前に入院したのです。私は主治医に同窓会に参加出来るかどうか相談しました。主治医からは参加出来るとの答えをもらい、夫も喜んで出かけることにしていましたが、当日になって、
 「僕、やっぱり行けへん、やめとく。」と言ったのです。
見た目以上に肉体はかなり悪化していたのでしょう。すぐ断りの電話を入れたのですがうまく連絡がとれません。仕方なく時間を見計らって会場に車を走らせました。
定刻ぎりぎりに着き、会場に入った私は驚きました。そこには6年生の時に受け持ったという子供たちがすっかり成長し、たくましい青年、美しい女性となって部屋いっぱいに大勢集まっていたのです。

 「ごめんなさい。間に合いませんでした。とても楽しみにしていたのですが、病気が進んでしまいました。」と謝り、思わずこみ上げてくる涙をおさえながら退き、病院の夫のもとに帰りました。病院に戻ると私の出発と入れ違いに2人の子供が夫を迎えに来ていたというのです。
 「行けなくて残念やったけど、上山君が迎えに来てくれたよ。」
とうれしそうな夫の顔。こんなになってまでまだ笑顔なのです。この笑顔が私を支えているのです。このころはすでに食欲はほとんどなく、カラに近い胃からもどす液体は抹茶色でした。何度も何度ももどすことを繰り返し始めたのです。
 「僕、もどすの上手くなったわ。もどした後は気分がすっきりするんや。」と、笑顔で語る夫なのです。  その翌日からは、入れ代わり立ち代わり子供たちが次々見舞いに訪れて来ました。手紙を持参する子、皆で寄せ書きした色紙を持ってきてくれる子、本当に大勢の子供たちが駆けつけて来てくれました。たちまち部屋は教室のようになり、そこには笑顔があふれていました。

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