● パパらんの贈りもの ●
夫は5月の半ぱに退院し、その後職場に復帰するまでの約1ヶ月間を自宅で過ごしました。入院中は私の役目となっていた犬の散歩にも行くようになりました。私は何度か犬を連れて歩く夫の後ろをついて行きました。体重が15キロほどの中型犬です。引っ張られればかなりの力が加わります。夫は網を体に巻き付け、急に引っ張られても体全体で受け止められる様にして散歩していました。
あれは、6月13日の事でした。退院後CT検査を受け、その検査結果を聞きに行った時のことです。名前を呼ばれ一緒に診察室の中に入ると、医師の机の前の蛍光灯の光で浮き上がる、夫の肝臓を写したCTフィルムが目に入りました。一瞬ドキッとし、夫の顔を振り向くと、ただ笑顔だけなのです。いくら真実を知っているとはいえ、私にはつらいことでした。フィルムに赤くチェックされたがんの影は本当に肝職全体に広がっていました。大きいのから、小さいのまで無数とも思える程でした。告知の後にはこんなこともあるのです。私は医師の前でどんなことを聞いたのか思い出せません。また、フィルムを見せることがいいことか悪いことかも分かりません。ただやはり告知を受けた患者ということで、耐えなければならないこと、受容しなければならないことなのでしょう。感情を表すこともなく、笑顔で医師の説明を聞く夫の心をくみ取ることは出来ませんでした。帰宅後も互いにそのことに触れることなく翌朝を迎えた時のことです。
「玉ちゃん、あの柄、豹の柄みたいやと思わへんか?」 やがて夫は6月の半ぱから職場に復帰しました。既に職場の同僚の何人かは、夫の病状をご存じでした。皆に快く迎えられての職場復帰でしたが、口には出さないものの、自分の体が思うように動かないことに悩んでいた様子でした。新学期早々から長期間休んだのです。当然クラス担任からは外されていました。子供が大好きで子供の中に生きていた夫にとってこの事はかなり辛かったようでした。それまで自分の仕事だったことも他の先生がされており、干された気分になることもあったようです。でも努めて明るく振る舞って くれていました。夫にしても負けてなるかという必死の思いのスタートだったのでしよう。 |
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