●8月6日 木曜日 | |
すがすがしい朝、いつものように5時に目覚める。なんとなく遠慮がちなざわめきが感じられ外に出てみる。いやー、いるいる。インパラとゼブラの群れがすぐ手の届くところにいる。水を飲んだり草を食べたり朝食に忙しい。ちやんと見張り役もいて安心して食べている。辻君も起き出してくる。こういう空気は日本では長野県あたりまで行かないと吸えないななんて思いながらただただ見ほれている。 7時ごろに朝食を終えて早朝サファリに出かけそのままニエリはアウトスパンホテルを目指すことにする。ナクールゲームリザーブはバッファロー、白サイ、イボイノシシ、ライオン(遠くにいたのみ)とフラミンゴ、ペリカンが特徴である。ナクールの町に入って給油のためにストップする。これだけの人数になるとトイレも大変だ。
ナクールには長崎大学熱帯医学研究所があり、日本からの派遣の老舗である。アフリカン音楽のテープなどを売りに来るが上手に日本語をこなす。とにかく仕事がないので若いたくましい男性が物売りをしなければならない。エネルギーの有効利用にはなってないよね、これでは。たっぷり給油後3時間の予定のドライブは結構かっ飛ばすのですこし早くなる。道も良好で若い子達は今朝3時ごろまで起きていたそうですぐにうつらうつらしはじめる。ニエリに近づくと景色が変わってくる。緑が多くなりティーやコーヒーがトウモロコシの畑の合間に目立ち始める。タバコの畑もある。水が豊富で農作物もよく育つのだろう。
ニエリの入り口に近くなると不意に熱いものがこみ上げてくる。そうだ。家族連れでよくきたものだ。この緑豊かな町の雰囲気がエンブに似ている。26年前の思い出が活動写真風に巡ってくる。思えばこの四半世紀の情熱はまさにこの地から生まれたのだ。闘争で消耗した小生よりはずっと元気な妻にリードされるように二人してECFMGを受け、留学資格を得てすぐにこの地に赴任したのだ。それにしても妻と同時に試験を受けるのは緊張する。この後、米国の国家試験(FLEX)をも二人で受けることになるが、それが三日間の長丁場で連日解答を合わすと小生のほうに部が悪く、いや、そのストレスの強かったことブランデーが二本空になったくらいである。
3歳の啓太郎は人間としての原点をこの地で学びさらに米国で育てることになる。色・言葉の違いにこだわらず人が好きになるばかりか、蛇もライオンもゼブラも、動物すべてが友人であると信じるようになっていく。当時のつつましい?−ウイスキー・ビールはのみ放題、肉は食べ放題でつつましくはなかったか?−生活を思えば今は贅沢になったなと殊勝な気持ちにもなる。静かな自然と、貧しいが必死に生きる人達と人間として、医師として関わり、生きることの切実さを知り、学ばねばならない道を二人して見据えることが出来たことは、この国が持つ本当の余裕が我々に与えてくれた贈り物であったと確信する。それはある意味では神のような存在であったのである。もちろん、当時はそんなことには思いをいたす余裕もなくただただ毎日を懸命に生きていたのだが。
医真会の理念にある"人間愛に基づき"の原点は実はここにある。言葉は時には羽よりも軽く、時には鉄よりも重い。小生にとって人間愛は死ぬまで追い求め続けるもので決して全うし得ないものであろう。そんなことを思いながら車は最後のカーブを回ってアウトスパンホテルに到着する。そう、何にも変わっていない。門からプロムナード、Tree Top Reception, その向こうにあるKirinyaga Tavern, Outspan Hotelは全く同じである。Receptionの入り口に荷物をおいて裏に回る。レストランのガーデンは啓太郎が走り、転げまわったころと何ら変わらない。すばらしい。よく手入れが行き届いて素敵だ。
早速昼食にかかる。スープはなかなかのものである。カレー風味のスペアリッブ、牛肉、チキン、ポテト、久し振りに胃の調子も戻ってしっかりと頂く。いや、ご馳走様でした。食後にGeorge君と話す。いやに不愉快な顔をして交渉しているようなので心配になる。実はマネージャーがいい加減でオーバーブッキングしてしまったので二人部屋で三人泊まってくれないかと言っているとのこと。出来るかそんなこと。No way to accept the offer. Call the manager here.と言っても彼はびびっちゃって出てこないとのこと。GeorgeもStephenも怒っている。出てきたらぶんなぐってやると意気込んでいる。とにかく個室はあきらめるがそれ以上は妥協しないと話す。
結局後で予約した25人ほどが宿泊できなかったとのことである。このホテルのマネージメントをケニヤの人がするようになっているのはいいことだが、もう少しきっちりとしないと問題が広がるよと注意する。Georgeは本当に残念そうだ。
入り口で散弾銃を持った森の監視員のおじさんが注意事項を細かく話してくれる。とにかく火事を出さないことだ。200mほど歩くと木製の5階建てのホテルが現れた。バッファローが近づいているから急いでホテルに入れと言う。いいね、この緊張感は。狭い階段、狭い廊下を経てやっと部屋に到着する。辻君と一緒だ。シャワー、トイレが共用でタイミングを計る。一段落して屋上に出る。我々のの部屋は最上階で廊下を出ればそこは屋上である。涼しい、というよりいささか寒い。長袖といえばラガーシャツしかなくそれに着替える。寺島先生が何を思ったかハワイの衣装で寒そうである。小生のウインドブレーカーをお貸しする。
下の池の周囲にはバッファロー、インパラ、マングース、象など次から次へと塩を食べにやってくる。適当に写真を取って夕食までをバーで飲んでいると三々五々集まってくる。食前酒にジントニックダブルを飲んでいると藤本君が来る。同じ物を飲むという。それが災いして急激にアルコールが回って夕食はダウン。残念でした。少し狭いが食堂は満席である。どうも食事は上等とは言いがたい。それでも満腹になってまたバーに戻る。
スティファン、ジョージらと話す。ジョージはアルコールを一切飲まない。ケニヤの若者にとってどういう努力が必要なのかを話す。ジョージを日本に招待することを約束する。それを契機に皆協力して事業を起こすことを考えたらと勧める。5年、10年の地道な努力と計画により彼らの彼らによる彼らのための仕事が仕上がっていくだろう。本当に即時的欲求に負けることなくがんばって事業を成し遂げることだ。期待している。夜、目覚めて屋上に出てみる。霧がいっぱいで寒い。動物はいるようだが見えない。しかし、ケニヤで寒いなんて、霧に咽ぶなんて、珍しい経験である。霧はメランコリックにしてくれる。風邪を引く前に眠ることにする。今回は辻君に先に眠ってもらう。明日の朝食はアウトスパンでとるとのこと。期待している。お休み。
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