●8月10日 月曜日

 5時起床。いやはや朝からあわただしい。とりあえずチェックアウトの準備をして朝食に行く。このオムレツも今日で終わりかと思いながら出来あがるのを待つ。毎日このような朝食を摂っていると体重が増えそうだ。辻井先生はJICAの先生とともにゴルフに出かけられる予定である。小村先生達はコーヒー・紅茶などのお土産を買うついでにナイロビの町を探求されるとのこと。われわれはストリートチルドレンの検診に向かう。

ナイロビの西部にあるMbagathi District Hospital の古い建物をお借りして診察することにする。子供達には週に二回、ここで食事が与えられる。久保田恵子さん(ご主人はナイロビ市議会議員とのこと)や菊本さんらがボランテイアの人達とともに提供している。この日は子供達にとっては大切な栄養補給日なのだ。診察くらい我慢しようかなといったところか。それでも女の子は来ない。
建物の外は小さな露店に売り物を並べた市がたっている。スラムとはいえ昔よりは少しはましか。なんせ台の上に売り物がたくさん並んでいるのだから。昔は芋が10っこだけとか、不揃いなトマトが少しだけなんて露店が多かったものだ。そのころのほうがスラムはなく、ストリートチルドレンも居なかったのだから不思議な気がする。ここにある野菜類が少し古くなったら子供達に分けてやればいいのにと思うが、そういう発想はでない。極端な貧しさは厳しさばかり目立って、やさしさを生まないとは考えたくないのだが。

日本もつい70年ほど前の昭和金融大恐慌の頃には赤ん坊を間引いたり、売ったり、子供達や年寄りが餓死したのだから、あながちケニヤが極端なのではない。それにしても予診、診察、採血の場所を確保するのに椅子でも使う以外にない。みんなで手分けしてそれぞれのスペースを作る。例によって採血後に飴を配ることにする。検診開始。子供達の表情が硬く、防衛的だ。マトマイニの子供達とこんなにも違うものか。日に一回も食べることが出来ればいいほうだとのことだが、なんとかならないのか。衣食足って礼節を知るとはいかないまでも子供らしさは飢えからは生まれない。それでも何人かはそばに来て離れず甘えようとする。

子供達には診察上貧血が見られる。しかしここでも歯の悪い子は少ない。歯垢を残すほども食べていないってことか。甲状腺はそんなに腫れていない。血液検査では一人だけHIV陽性だった。今回の予備的検診の結果は後程関係各方面に報告させていただくが、目下のところケニヤでは少なくとも30−40人に一人の割合でHIV陽性者がいる可能性がある。それにしても久保田恵子さん等の努力には頭が下がる。こういう活動にボランティアとして参加する若者を日本で募ってみたく思う。そういう行動をサポートする組織を作れればと密かに期する。

今の日本はどうしようもないほどせこい、個人と組織の欲求を満たすためだけの作業に血道をあげている人達が多すぎる。そんなことの積み重ねの上に何があるのか。資本主義が発展し、生み出した怠惰・不信・浪費・腐敗・裏切りなどなどが聖書のソドムに擬せられそうだ。この日本で生きていくのには今一度、人間性を中心に据えて発想する必要がある。
それを学ぶにはケニヤはいい先生である。とにかく検診を終えて、直接昼食に向かう。Carnivre なんてひねった名前のレストランである。それもそのはずでビーフ、ポーク、ラム、チキンの他にエランド、ゼブラなどの肉を供するらしい。なに?ワニ、キリンまで出すんだって? いいのかねそんな肉を食べて。今日のところはワニ、キリンは無さそうでほっとする。サーベルを突き刺した肉の塊をチリチリとあぶり焼いて殺ぎ落としてくれる。なかなかいい味である。こういうレストランは外国人向きだよね。いつかケニヤン向きにも作れる日が来るのだろうか。

大急ぎでホテルに戻り、前田先生等は検査にかかる。芸大の4人組はマトマイニに2週間滞在するため菊本さんと一緒に一足先にでかける。ほんとに迷惑かけずに過ごせることが出来るのかね。まあ、何よりも経験と努力だわ。しっかり教えてもらいなさい。インド経由で帰る人達は5時ごろに出発する。残った英国航空組は中国料理を食べてから空港に向かう予定であったが出発の時間が遅れて、中国料理はほんの一箸で慌てて空港に向かう。遅かったため席はばらばらになる。空港の荷物検査は 例のテロ事件のため厳しかった。ジョージ、スティファンには再会を約して分かれる。ほんとにいいケニヤン達である。夜のナイロビ空港は愛想がない。ロンドンへの便は満員で最後部の席で眠ることになる。朝からあわただしく動き回ったため、かなりよく眠る。目覚めたのはロンドンに着く少し前であった。

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