ホスピス

● 黄色の薔薇に囲まれて Vol.4●
―愛する人と別れるとき―

提供:だいとう循環器クリニック機関誌 「花みずき」

 
  主人は私に「もう、笑わなくてもいいからな。ありがとう。」 と言いました。
それから家族は毎日顔を見に来てくれましたが会話はあまりありませんでした。私と主人は昔の恋愛時代を愛おしむように話しました。意識レべルは下がり、最期は「ウンウン」 とうなずくだけでしたが息をひきとるまで統きました。人の聴覚は最後まで残ると聞いたことがありますが、まさにそのとおりでした。
  主人が亡くなる瞬問の情景は末だに鮮明に記憶されています。何年経ってもやはり涙がでます。その当時は必死でしたが、こうして思い出していると、これで良かったのか?あの時もっとこうしておけば良かったのでは?と悔やみ自分を責めたくなります。


<遺言の実行>

 
主人が亡くなり周りはあわただしく動き始めました。
家族は遺言について納得はしていましたが悲しみのあまりか忘れてしまったのでしょうか?お葬式は主人が望んでいたものとは反対に大きなものになり、私が出来たことと言えば黄色の薔薇で埋め尽くすことだけでした。お別れの時のために主人と録音した音楽は使 うことを許されませんでした。
  主人を想って下さった方々のおかげで、四十九日が明けるまで黄色の薔薇は途切れるこ とはありませんでした。今でも、黄色のミニ薔薇が咲き主人の命日を知らせてくれます。

 四十九日が済めば家を出るようにと言われていました。私達夫掃には子供が無かったので私が残れば親の面倒をみることになり、それをさせないためにと言い残されたものです。 主人の想いは充分わかっていましたが、家を出ることはとても悩みました。すぐに、初盆を控えてましたのでそれが済むまでにお墓の事もあわせて考えようと思.っていました。と ころが、私がもたもたと悩んでいる間に両親によってお基が決められました。大きな驚きでしたが、すでに決まってしまったこと、それに両親の想いを考えれば何も言えませんで したし、ここにきてまで事を荒立てるようなことはしたくありませんでした。

  "しがらみから解き放されたい"という、主人の願いをいつか叶えるために、私が出来ることは何?と考えてお寺に電話し、事情を説明し了解を得て、家族には言わずに分骨していただきました。
 初盆が済むまで毎日お参りの方が来られました。泣くな、わめくな、取り乱すな、いつも毅然としていなさいと言われ、また、自分自身もそうあるべき!と言い聞かせ、自分の感情を無理矢理押し殺していま「た。反対に両親は泣き崩れ、来られた方々に自分たちの悲しみを訴えていました。そうでもしなければ悲しみは癒されないのだと感じました。私は主人のことが精―杯で両親の悲しみに対しては何も出来ませんでしたから。

 お墓のことが落ち着くと今度は遺言書が問題になりました。おふくろにはおやじがいるのだから……と、財産は私に残す、その代わり借金を返すのも、もちろん私。分かっているようで何か理解しがたいものがあったのでしょう。そのために、疲れ切った体で、何度か弁護士さんのところに行きましたが遺言書が第―に優先されるとのことで分かって頂くしかありませんでした。そんなこんなで、自然に家を出るような環境になり、お墓の近くに引越し、新しい生活を始めることになりました。

  <遺族になって>

 
新しい生活は2年間の長い「鬱」の始まりでした。
主人が亡くなったという事実を受け入れることが出来ず、「人の存在の意味」、「死」について「生きる」ことの意味を知るためにあらゆる宗教の本を読みあさりました。何故、 私でなく主人なの?と病気に気づかなかった自分を責め、自分が生きているということの罪悪感で押しつぶされそうでした。

  たくさんの本を読んでもいくら考えてもその意味を見つけることはできず出家を考えたこともありましたが、それさえも叶わずただ、泣き明かして過ごす毎日でした。泣いたかと思えば、急に笑い出し、自分の感情がコントロールできなくなり、食べること、眠ることも忘れたように1日中ボーッとして過ごしたかと思うと、こんな事していたらアカン! 早く仕事を捜さないと!と外へ出るのですが、すぐにクタクタになって帰ってきます。人に会うのもイヤ!話すのもイヤ!これから一人で生きていくのもイヤ!感情も欲もなくなってしまったようでした。この2年、どんな生活をしていたのかまったく覚えていません。

  主人が亡くなってから感情を無理に抑えていたことはあまり好ましくないように思います。やはり、「ひまわりの会」のような場所が心の癒しには必要だと痛感します。(播磨ホスピス在宅ケア研究会の遺族の会)

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