“ぽくだってやれるんだ”
B君が学童保育に入所したのは、三年生の二学期の終わり頃でした。双児の兄弟として生まれた二人は1900グラムの未熟児で、生後三ヵ月間、保育器で育ちました。学力・体力とも発達のおくれがあり、学校では養護学校に通っていました。とくに兄のB君は、表情もあお白く、一年生よりも体が小さく、指導員も学童保育で生活しきれるかどうか不安を抱きました。
あそぴを知らず、体をうごかしたり、友だちとまじわってあそんだ経験のないB君は、入所当初、ほとんどだれともあそぷこともなく、いつも部屋のすみっこで本を読んだり絵を書いたりしていました。集団あそびに入れないということで、学童保育生活全体からはずれていきました。まわりの子どもたちも、あそべないB君に声をかけることもありませんでした。幼児語が残り、生活習慣も十分身についていないB君は、みんなから仲間はずれにされ、バカにされることがよくありました。
そんなB君に、「みんなから仲間はずれにされ、いじめられて、くやしくないのか。みんなをみかえしてやろう」と言葉をかけても、返ってくるのは、
「ええねん、いつも学校でみんなにいじめられてるから、慣れてるねん」という、本当に胸のつまるような言葉でした。
そのころ学童では、コマ教室に取り組んでいました。B君はコマをまわしたことがありませんでした。けれども、毎日、まわりの子どもたちがコマまわしに熱中し、どんどんうまくなっていくのを見ているうちに、“ぼくもやってみよう”という気持ちになったのです。はじめてコマを手にし、みんなからはなれてひとり、かげで練習をはじめました。ひもをまくことからはじめ、数日後、やっと自分でひもをまいて、まわせるようになりました。
「おにいちゃん、あそびっておもしろいな」と、言葉に出してそのよろこびをあらわすB君に、それまでの生活体験をみる思いがしました。
自分から遊びに関わり、おもしろいと体験したのが、学童保育に入ってはじめてだったのだろうと思います。コマをまわせたよろこびが少しずつ、遊びに対する自信と意欲につながっていきました。
そして、三学期、なわとび教室に取り組みました。なわとび教室は、「前とび」「後とび」「片足とぴ」「後片足とび」「あやとび」「こうさとぴ」「後こうさとび」「にじゅうとび」の八種目をつくりました。そして、一人ひとりの目標を決めました。けれども、B君はなわとびがとぺませんでした。なわを地面にたたきつけるばかりで、手首がまわらないのです。そのため、B君ひとりだけ、目標をたてることができませんでした。
「なんやB君、なわとぴもとばれへんのか」 「B君、目標なんか決めんかったらええねん」という言葉がまわりの子どもたちから出ました。