介護保険
 

● 介護保険で在宅医療現場はどう変わるか ●


介護保険下での費用試算

 実際に公的介護保険制度が2000年4月より開始された場合、私の抱えている患者さんたちへの影響はどうなるのか今回考えてみた。介護保険の「要介護」あるいは「要支援」が必要な在宅患者さんは1カ月あたり54軒62人中45人(72.6%)となり、そのうち高齢者2人住まいか独人住まいの世帯が14軒(25.9%)となっている。介護者が65歳以上の高齢者の家庭が74%を占めている。具体的に例をあげて考えてみるとたとえば次のようになる。
(1)Yさん夫妻の場合(表2、3)
 夫は91歳で緑内障のため失明状態であり、数年前から老人性痴呆の症状が出てきているが“まだら痴呆"の段階で、1日のほとんどを布団の中で仰臥状態で過ごしているため臀部に褥瘡を認めている。頑固な性格でエアマットなどを導入しても拒否し、ポータブルトイレに頻繁、坐っている。介護者は87歳の妻で、パー―キンソン病と骨粗鬆症があり何とか日常生活動作は自立しているが、夫の介護のために力を入れたりすることは困難である。現在は月2回の往診に加え、週3回の訪問看護(訪問看護ステーションより)で入浴介助や褥瘡の処置を行い、ホ-ムへルパーが週3回2時間ずつ家事援助をしている。食事は給食サ―ビスを利用している。5人の子供たちは近くにいるがそれそれの家庭を維持するのに必死で、週に3日昼間2、3時間様子を見に来るのと、時折、夜間に泊まりに来るのがやっとである。デイサ-ビスを勧め、1度は夫妻で参加するが以後は拒否している。さらに夫には自律神経失調があり、時折低血圧の発作を起こし急に動けなくなってしまうために、緊急に看護婦や医師が訪問することも多い。

 このケースで介護保険が導入された場合、どうなるのだろう。夫は食事、排池、着替えはなんとか自分でできるが、一部支援が必要という点から要介護度はU(軽度)と判定されるかもしれない。その場合、ホームヘルプ週1回、訪問看護週1回、デイケア・デイサ-ビス週3回、1週間のショ-トステイが2カ月に1回という介護サービス内容となる。妻のほうはT(虚弱)といった状態であろうか。
 まず費用の点から考えれば現在の負担額は訪問看護ステ一ションに1人月額2750円、ホ-ムへルプ代月額9000円であり介護関係の出費は月に1万4500円である。介護保険では夫のほうが在宅介護サービス費15万円の1割にあたる1万5000円、妻が介護サービス費6万円の1割の6000円。それに保険料2500円が2人分の5000円を加えると合計月に2万6000円の出費となる。結果として、負担額は大きくなりホームへルプ、訪問看護の回数は減ってしまうことになる。

 家族の援助が得られない分、サービス超過分を支払うとなると全額自己負担となり結局は多大な費用負担となってしまうようである。被保険者も自己負担金があるのは、利用した者と利用していない者の負担の公平のためとされているが、年金受給者にとっては大きな負担にもなる。さらに、派遣できるホ―ムへルパーの人数が十分でなければ受けられるサ―ビスは自然と制限されてしまい、今の状態を存続することもむずかしくなってしまうのではないだろうか。

表3 Yさん夫妻の場合
夫(91歳)失明状態、軽度老人性痴呆、褥瘡
介護者:妻(87歳)、パーキンソン病、骨粗鬆症

現在のサービス 介護保険下
(1)訪問看護 3/週 1/週
(2)ホームヘルプ 3/週 1/週
(3)デイサービス 1/週 3/週
(4)シュートステイ
1/2ヶ月
負担費用 (1)×2+(3) 夫:要介護度U 軽度15万円×0.1
妻:要介護度T 虚弱6万円×0.1
介護保険料 2500円×2
合計 1万4500円 2万6000円

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