オンラインマガジン1999.4.7
介護
 

● 「サービス提供側の視点からの脱却」 ●
「利用者のQOLを高めるサービスとは?」

提供: さくらいクリニック  院長 桜井 隆
http://www.reference.co.jp/sakurai/

 

 武造さんがどうも元気がないと訪問看護に行っているうちのナースのメグちゃんからの報告だ。
武造さんは脳出血の後遺症で右の片麻痺はあるものの、下肢装具と杖でなんとか室内は歩けるし、電動車イスでの外出も可能で特に今体調が悪いというわけではない。デイサービスも週2回利用しているし、ヘルパーさんの派遣、訪問看護による入浴介助など、なかなかいいケアプランで介護保険を利用できていると思っていた、のはこちらの勝手な想像なのだろうか。

 機会があってアンケートをおこなってみた。
これは「あなたが御自分に健康をどのように考えているか、日常生活をどのくらい自由にできるかを知るため」のアンケートで「あなたの健康状態は ? 1,最高に良い 2,とても良い 3,良い 4,あまりよくない 5,良く ない」 といったぐあいの37の質問に答えてもらってそれを統計処理してその方の身体状態、精神状態を100点満点で表し客観的に評価するものだ。

あくまで利用者の自由意志による解答なので利用者の立場での健康状態、QOLの評価が可能 、という点がすぐれている。その結果を見ておどろいてしまった。武造さんのアン ケート結果は身体状態、精神状態とも20点と低値、なんと癌のターミナルで在宅 ケアを行っていたOさん(アンケートのあと一カ月で御自宅で亡くなれた)より精神状態の点数がはるかに低かったのだ。

 よい介護サービスを受けられてよかったね 、というのは全くサービス提供側の思いあがりで、武造さんの心の内には今の御自身の状態やら受けている介護やらに不満があるに違いない。それを障害受容ができてないとかわがままだ、とか言ってしまうサービス提供者中心の視点から脱却する にはどうすればいいのだろうか。

今度ゆっくり武造さんに聞いてみるしかない、が 彼が本心を語ってくれるかどうかは?だ。まだまだ在宅ケアのサービスは自由に選べるという状態からは程遠い。
「先生、すまんけどなあ、往診も含めてケアマネージャーごと総がえするさかい、もう来ていらんわ。」と武造さんから断られるようになって始めて利用者主体の在宅サービスの時代と言えるのかもしれない。

 

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