介護
 

● 70歳が95歳を介護、、老老介護のゆく末は? ●

提供: さくらいクリニック  院長 桜井 隆
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  よしえさんが少し曲がった腰を押さえ足を引きずりながらとぼとぼやってきた。
「腰痛ですか、なにかきっかけがありますか?」
「いやいや今日は私の腰痛じゃなくて、やすさんのことで、」

聞くと70歳になるよしえさん、95歳の義理の母やすさんの介護で腰痛になって しまったとか。やすさん、先日まで丸まった背中で一生懸命お達者カーを押してなんとかかんとか通院していたんだけど。とうと動けなくなってしまったようだ。早速往診にうかがってみた。車を玄関前の庭に止られるほどの大きなお屋敷、古くからの地主さん、という。

広いお宅に入っておどろいた、、とにかく寒い。
「暖房は?」
「やすさんが冬は寒いもんや、暖房は嫌いといまだにこたつだけで、、」
「ところでやすさんは?」と案内されたのがこれまた北側の寒そうな座敷、隅の方に布団を敷いてちょこんとやすさんが寝ている。

「忙しいのにわざわざ来てもろうて、よおなってから行きますのに、、、すんませんなあ。」と申し訳なさそう。
腰痛で動けないやすさんを診察した。取りあえず新 しい骨折はなさそうだが、、確か痛み止めを処方してあったはず、コルセットも作ってあったぞ、とあたりを探すと、布団の下から、枕元の箱から、机の引きだしから、横のタンスから、出てくる出てくる、湿布とクスリ。血圧、心臓、漢方等など 、なんでもござれ、やすさんと顔を見合わせて思わず笑ってしまった。

「大事なもんはみんなしまいこみなさるんで、、」 とよしえさんが申し訳なさそうに横から助け船を出す。
とにかくこのままでは共倒れになってしまう、、と介護保険の申請、ベッド等福祉用具とヘルパー派遣を勧めてみたが、 「そんなもったいない、すぐに良うなるからいらん、ベッドなんか、落ちそうでコワイし、、よしえさんが見てくらはる、」とやすさんは受け入れそうにない。

これはよしえさんから説得せんと、とこれまた寒い応接間に場所を変えてで話をしてみた。
「とにかくヘルパーさんを入れないと共倒れに、、」
「他人さんを家に入れるのは、ちょっと、、嫁として近所の手前もありますし、、 」
「じゃあ施設入所を考えますか?」
「そうゆうとこへやったいうと、これも、、とりあえず病院へ入院させてもろうて 、、」
「うーん。やすさんに必要なのは医療じゃなくて介護なんだけど、、 まあとりあえず入院してそれから次ぎを考えますか。」
「そうしていただくと私の顔も、、、」
「顔も立つしやすさんの腰も立つといいですよね。」
苦笑いしながらよしえさん、立ち上がった瞬間にイテテ、と腰を押さえてよろけそうなる。よしえさんも介護保険の申請が必要みたいだ。

 

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