ホスピス
 

● もう一度がん告知を考える ●


『第19回ホスピス症例検討会』 98.10.1より

症例提供:だいとう循環器クリニック

【症例紹介】
女性 年齢77歳
病 名:胃がん 卵巣、腹腔内転移
介護者:同居の長男の嫁・近所の長女 キーパーソン:長男
日常生活助作:自立している
身体の状況:補聴器使用  耳もとで大きな声で話すと何とか会話できる

<在宅までの経過>
H.10.6.29 胃がんの手術を受けるが、広範囲に転移があり試験開腹に終わった。その後化学療法を受けて退院となる。病院の医師からの説明は「胃潰瘍で胃を全部とった。」
<在宅後の経過>
   7.23退院・往診開始、中心静脈栄養のチューブが挿入されている。 吐き気が強くお茶を飲んでも吐くため、経口摂取ができない。痛みの訴えはない。 吐き気は残る少量ずつ経口摂取ができる。食べて元気になるという気持ちがある。 今までの検査データもきちんと自分で整理している。長男のお嫁さん「おばあちゃんは今まで自分のことはちゃんと管理してきた。」
ここまでの情報からクリニックでカンファレンスを行い自己管理ができる方、自分で 判断して行動する方なので悪性だったと告知したほうがよいという結論になった。 息子さんも「告知したほうがいいのではないか?」
   7.28医師「取り出した胃は、がんになっていた。またいつ広がってくるかわからない」
患者「はじめて聞いた」3日後から腰痛が出てくる。食べていないから腰が痛くなる。悪いものは手術でとったから病気で悪くなるはずがない。」28日の説明は理解できていない、悪性とは思っていない、と家人よりの言葉あり。
しかし、その後本人より「先生が、がんみたいなことを言った」 「○○さんに挨拶に行っておこう」とか、少し身の回りをかたずけている。
   8.8この頃から経口摂取、かなり減少する。以降、嘔吐回数増加。なぜ嘔吐するのか、誰が来ても問いかける。もう―度、CTを撮り説明をすることにした。
   9.1 倦怠感が増す。状態悪化。
   9.7 永眠。
がん告知を受けないまま在宅療養となった患者さんを通しての問題点をディスカッションした。

<告知が進まない問題点>


1.病院での主治医はいまだになぜ告知をしようとしないのか。
2.家族もがんとは言わないほうがいいと思っている人がまだまだ多い。
3.病院から在宅療養への移行は進んでいるが、病名の告知をしていないと在宅での利点が発揮できないという認識がない。
4.クリニック側は、患者さんの治療経過・病状によっては病院の主治医に対し遠慮する場合がある。

<質問、意見など>


*告知する時の雰囲気や結果はどうだったか。
 難聴があり、かなり大きな声でやっと通じる程度であるため、患者さん自身わかりにくいところがあったかもしれない。本人の受容は全面的ではないが、ある程度の受容はあったと思われる。

*家族の告知への受け入れはどうだったか。
 初めの頃は積極的ではなかったが、少しずつ受け入れができていった。
 家族に受容ができていなければ、24時間患者さんと共に過ごす家族がオロオ口してしまう。

*病院での主治医からの説明がない点について。
 クリニックに紹介があったな場合、退院をして療養をするだけと聞いていることが多い。
 病院側が在宅ホスピスの適応でないと説明することもある
 初めの手術または、病状説明が誤魔化しだったことは患者さんにとって病院の医師に対する不信感をもつ。在宅療養が無理になったとき、元の主治医のところに戻って入院することが多く、在宅側は患者と元の主治医との関係に配慮することになる。
 中心静脈栄養の管理も病院との連携が必要なことが多い。
 在宅になってから告知すると、その後の時間が少なくなっている。

*本人への告知は必ずしも問題ではないとの指摘もあった。
 症状緩和ができれば、必ずしも病名の告知をしなくてもいい。
 緩和できない状態になってからはどうするのか。
 告知をしたほうが世話をする人が楽である。患者さんの状況による。

<おわりに>


告知の是非での討論の結論は、やはりまとまらない。
しかし機会あるごとに討論を重ね、がん告知を考えることが大切である。

文責  松本 美和
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